床下タンクから汚物を抜き取る。ホースに添える左手もポイント(『トイレと鉄道』より)

床下タンクから汚物を抜き取る。ホースに添える左手もポイント(『トイレと鉄道』より)

汚物抜き取りは1編成2人体制

 今回、汚物抜き取りの様子を取材させてもらったのは、北陸新幹線のE7系だ。車両形式によって、またその編成によっても微妙に異なるが、E7系のトイレは1・3・5・7・9・11・12号車に設けられている(1~9号車までは隣の偶数号車との間のデッキ、グリーン車とグランクラスの11・12号車も両者の間のデッキにある)。

 基本的にそれぞれ小便器・男女共用洋式トイレ・女性用洋式トイレがひとつずつと洗面所がふたつでワンセット。ただし、7号車には女性用洋式トイレの代わりに多機能トイレが入り、洗面所はひとつだけ。また、11・12号車には多機能トイレと小便器、女性用洋式トイレがひとつずつと洗面所がふたつという組み合わせになっている。そして、それぞれの床下に汚物タンクと清水タンクがある、というあんばいだ。

 TESSEIの担当者は、「実は車両によって編成の長さやトイレの位置が微妙に異なってくる」と打ち明ける。JR東日本の新幹線車両は、東北・上越・北陸新幹線に加えて新在直通の山形・秋田新幹線を含めれば6形式。それらが行きつ戻りつやってくる。次にどの車両が入ってくるかは事前の計画でわかっているので、それに応じてスタッフは準備を整えているのだ。

「2024年の春から山形新幹線のE8系が新しく出てきましたが、従来の山形新幹線E3系とはトイレの位置が変わっていたり、車外設備は細かいところで実はけっこう違っているんです。なので、すべての車両の床下タンクの位置に合わせて汚物を抜き取るホースが設けられています。12両編成のE7系の場合は、1・3・5号車の担当と7・9・11・12号車の担当に分かれての作業。それぞれひとりずつで汚物の抜き取りと清水タンクへの補水といった作業を行なうことになります」(TESSEI担当者)

 こうした作業をすべて30分ほどで終わらせなければならない。

汚物タンク、清掃作業の実態は

 作業の流れはシンプルだ。

 車両が停車すると、床下の汚物タンクのフタを開け、バルブにホースを取り付ける。そして、コックを捻れば汚物が流れ出てくる。通常は30秒ほど、たまっている量が多いときには1分ほどで空っぽになるという。

 汚物を抜き取れば、タンクの中を水で洗浄し、続けて清水タンクの給水作業に移る。清水タンクの水は便器の汚物を流すだけでなく、温水洗浄便座の水や洗面所での手洗水などにも使われる。だから、もちろんこちらも空っぽの状態で次の旅に出発させるわけにはいかない。

 清水タンクには、給水のバルブの他に小さな計水バルブが取り付けられている。給水作業ではまずこのバルブを開けるところから。タンクの80%の容量まで水が入っていれば、検水コックから水が流れ出る。その場合は給水はせずにそのまま。出てこない場合は、検水コックから水が出てくるまで、つまりタンクの80%まで補水することになる。

 ただし、鰻屋のタレのごとく清水タンクの水をいつまでも注ぎ足し注ぎ足し使い続けるわけにはいかない。そこで、仕業検査を伴う抜き取り作業時には、清水タンクの水をすべて排水して満タンになるまで給水している。

 ともあれ、この汚物抜き取りと清水タンクの補水・給水が1か所ワンセット。汚物の量などによっても変わるが、1か所の作業には10分もかからない。

 終わったらすぐに次のトイレの床下に移り、同じ作業を繰り返してゆく。新幹線のトイレはざっと2両間隔で設置されている。1両の長さが25メートルだから、1か所の抜き取りと給水・補水を終えたら50メートルは移動しなければならない。そこに自転車を使っているあたりは、長い車両での作業を効率よく進めるための工夫のひとつといったところだろうか。

 そして、これを繰り返してすべての作業が完了、新幹線もスッキリサッパリするというわけだ。

 この作業を見る限りでは、汚物を直接目にすることもなければ、ニオイを感じることもない。夏場や汚物の量が多いときにはいくらかニオイを感じることもあるというが、少なくとも作業員の安全性や衛生面にも問題はなさそうだ。

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