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膣フィラー施術直後に女性2人が死亡、韓国で初の解剖報告、38歳と35歳の女性が施術直後に失神、産科婦人科での適用外使用で生命のリスク注意

韓国ソウル大学の研究グループは、膣フィラー注入後に死亡した2人の女性の症例について論文で報告した(写真/イメージマート)

韓国ソウル大学の研究グループは、膣フィラー注入後に死亡した2人の女性の症例について論文で報告した(写真/イメージマート)

 美容医療の分野でフィラー注入が一般的になっているが、合併症が問題になることもある。フィラー注入は顔に行われることが一般的だが、婦人科の分野で膣にも行われている。

 2025年2月、韓国ソウル大学の研究グループは、膣フィラー注入後に死亡した2人の女性の症例について論文で報告した。

膣フィラー注入の直後に失神

・膣フィラー注入の目的: デリケートゾーンの見た目の改善や性的満足度の向上を目的に行われるが、重篤なリスクも存在する。
・重篤な合併症の報告: 韓国の産科婦人科で施術された2例で、注入直後に失神し、その後死亡。肺や心臓、脳の血管にフィラーが塞栓していた。
・使用された製剤:一例はヒアルロン酸、もう一例はコラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸(PLA)の混合製剤だった。

 膣へのフィラー注入は、デリケートゾーンの審美的な改善のほか、性的機能や満足度の向上を目的に行われる。膣に対する手術や専用の高周波(RF)治療なども存在しているが、フィラーは簡便な方法として実施されることがある。腫れや感染に加えて、今回問題となったような、肺などの血管が塞がる重篤な合併症も知られている。

 報告では、いずれも産科婦人科クリニックで膣フィラーの注入が行われた38歳と35歳の女性が施術の直後に失神。その後、死亡した例が報告されている。いずれも、死因としてフィラーが関与したと見られている。

 38歳の女性は、施術の20~40分後に失神し、呼吸困難や血圧低下などを引き起こし、10日後に亡くなった。

 35歳の女性は、注射後4分で血液中の酸素を示す酸素飽和度の低下が見られ、心停止に至り、その後1カ月間の治療を受けたが、回復せずに亡くなった。

 解剖により調べたところ、フィラーによって肺の血管のほか、心臓や脳の血管にも塞栓(注:異物によって血管が塞がること。また、不可逆的とは元に戻らない状態のこと。)が生じていたことが判明した。注射後、数分という短時間のうちに血管を詰まらせたと考えられ、短時間で不可逆的な重篤な状態に陥っていたことが強調された。

 使用されたフィラーは、38歳の女性に対してはヒアルロン酸が使われており、35歳の女性にはコラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸(PLA)の混合された製剤が使われていた。

フィラーが肺、心臓、脳の血管を詰まらせる

・膣フィラー施術の実態:膣へのフィラー注入は適応外であり、安全性が確立されていない。過去のNTPE報告16例中81%が無資格施術によるもの。
・今回の報告の意義:韓国で初めて膣フィラー施術後の死亡例を解剖により分析。KFDSへの報告の必要性や、国際的に否定的な学会見解がある。
・国内への教訓:フェムケア領域で膣フィラーが注目される中、NTPEなど重篤なリスクの認識と慎重な対応が求められる。

 肺血管の閉塞を引き起こす病気としては、いわゆる「エコノミークラス症候群」がよく知られている。これは、足の血液の流れが滞るなどして血液が固まり、これが血栓となって肺の血管まで流れるもの。飛行機のエコノミークラスのように同じ姿勢を続けた場合に起こることがある。この場合は血栓性肺塞栓症と呼ばれる。これに対し、今回のようなフィラーなど血液以外の異物によって生じるものは、非血栓性肺塞栓症(NTPE)となる。

 報告によれば、これまでに膣フィラー後に非血栓性肺塞栓症を発症したと報告されたのは16例で、このうち81%が無資格によるもので違法施術と見られる(※編集注、膣へのフィラー注入は適応外であり、有資格者による施術も適用外使用と考えられる)。この中には死亡例の報告が9例含まれ、死亡例の過半数がシリコンやヒアルロン酸製剤の注入によるものだった。今回の死亡事例では、いずれも資格を有する医療従事者によって施術が行われていた。資格はあったが、膣への施術自体が適応外使用であるため、安全性が確立されていない中で行われたと考えられる。

 こうした事例は、画像診断では検出が困難であり、今回のように解剖などで顕微鏡を使って検査を行うことで初めて明らかになるとされている。死亡事例においては、肺に加え、心臓や脳の検査も必要であると指摘されている。

 論文によると、今回の報告は、韓国において、膣フィラー施術後の死亡例を解剖により分析した初の報告という。前述のようにフィラー注入は膣に対しては韓国でも承認されていない用途であるといい、韓国の医薬品の規制を管轄している韓国食品医薬品安全処(KFDS)への適切な報告が求められることが強調されている。膣は静脈の細い血管に取り囲まれ、フィラーが簡単に血管に流れ込むと注意が促されている。また国際的には、米国、カナダ、英国などの産科婦人科の学会は、女性器に対する美容施術に対して否定的な見解を示していると報告されている。

 国内でもフェムケアということで、膣へのフィラー注入は関心を持たれているだけに、今回報告された非血栓性肺塞栓症のような合併症のリスクを正しく認識することが重要だ。

参考文献

Korean Journal of Legal Medicine 2025;49(1):7-15.

婦人科形成、女性の自己肯定感高めるフェムゾーンのケア、小陰唇縮小術と膣ヒアルロン酸注入の実際、第112回日本美容外科学会(JSAS)シンポジウム

【KIMES 2025レポート】韓国で注目される膣専用の美容医療機器、乾燥、弛み、炎症など、QOL向上に対応、高周波やレーザーの最新デバイスが登場

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【プロフィール】
星良孝/ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表、獣医師、ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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