マニラで撮影のロケが行われた(【c】「Diamonds in the Sand」Film Partners)
日本の孤独死をテーマに、フィリピン人女性のジャヌス・ヴィクトリア監督が10年がかりど完成させたという、俳優のリリー・フランキー(61)が主演の映画『Diamonds in the Sand』。撮影は、東京で2023年4月に8日間、フィリピンの首都マニラで同年9月に8日間、それぞれ行われた。ノンフィクションライターの水谷竹秀氏が、ジャヌス監督に撮影の舞台裏を聞いた。(敬称略)【前後編の後編。前編を読む】
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本作に特徴的なのは、孤独死が発生する日本社会と孤独死の起きないフィリピン社会を善悪に分けるといった、単純な二項対立で描いていない点だ。フィリピン社会にも貧困や腐敗した政治など様々な問題があり、両国の現実をありのままに伝えている。「二項対立にしなかったのはそれが人生のリアルだからです。物事は白か黒かで描けるものではなく、人々は複雑で、人生もまた複雑なのです」とジャヌスはその意図を語る。
ジャヌスが日本の孤独死に衝撃を受けたのは、母国、フィリピンでは高齢者が1人で死亡した腐乱死体が長期間、誰にも気づかれずに放置されるというケースがないからだ。日本では数多く起こっている社会問題が、飛行機で南に約4時間飛んだ同じ島国では驚きに変わるのである。2024年11月下旬、都内で開かれた先行上映会の際に行われたジャヌスとのトークショーで、リリー・フランキーはこう語った。
「意外と僕たちが日常の中で当たり前のように接してきたことが、ジャヌスにとっては当たり前ではないというか。本当は僕たちが敏感にならなきゃいけないことに麻痺していたんだなと」
ジャヌスがマニラで祖母の面倒をみていたように、フィリピンの庶民が住む住宅地では親族らが同居する生活が日常化しているため、高齢者は孤立しにくい。ゆえに孤独死が起きにくいのだが、マニラの撮影でその様子を目の当たりにしたリリー・フランキーは、日本の住宅事情と比較しながらこう説明した。
「(フィリピンは)家族で住まざるを得ない経済事情の家も多い。自宅の前の道を居間みたいにして使っているから、人がコミュニケーションを取らざるを得ない。家族のつながり方もまだ、昔の日本っぽいっていうか。個人主義が成立する経済状況になっていないというんでしょうか」