楽しそうに麻雀を打っていたが、上がったのを見たことがない
しかし、カネやんが一番誇りに思っているのが「2人の対決で死球が1個もないこと」だという。すべて正々堂々の勝負だったことを物語っている。いまだにこの勝負が語り継がれる所以だ。生前、カネやんは長嶋さんについてこんな話をしていた。
「長嶋はエピソードには事欠かない男だった。国鉄時代、米国のバットメーカー・ルイビルスラッガー社が定期的にバットを送ってくれていた。グリップが細くて使わなかったが、それを知った長嶋が“1本ください”と言ってきた。気前よく譲ってやったはいいが、なんとその日にあいつはホームランを打ちよった」
グラウンド外でのエピソードもあった。
「当時は麻雀をよくやった。チームメイトだけでなくオールスターゲームの遠征では、夜になると南海の野村(克也)や杉浦(忠)らを集めて卓を囲んだもんだ。ワシは5歳から麻雀をやっていたからな。大スターのワシが声を掛けて、断わった選手はまずおらんかった。
長嶋にも声を掛けてよく囲んだ。これは今でも謎だが、長嶋は役牌どころか麻雀のルールそのものを知らんかったんじゃないかと思っている。もちろんそつなく牌を並べたり、ツモ牌や捨て牌もする。しかも楽しそうに打っていた。だが、ワシは長嶋が上がったのを見たことがない。負けてもニコニコしているから文句はないが、ワシの野球人生の七不思議のひとつじゃ」
記録にも記憶にも残るスーパースターだった。