スポーツ

《追悼・長嶋茂雄さん》日本シリーズで激闘を演じた山田久志氏が今も忘れられない、ミスターが放った「執念のヒット」を回顧

山田久志氏は長嶋茂雄さんを「ピンチでは絶対に対峙したくない打者でした」と振り返る(時事通信フォト)

山田久志氏は長嶋茂雄さんを「ピンチでは絶対に対峙したくない打者でした」と振り返る(時事通信フォト)

「ミスタープロ野球」長嶋茂雄さんが亡くなった。日本プロ野球史上最高のサブマリン、元阪急の山田久志氏(76)が、惜別の弔事を寄せた。1971年の日本シリーズで対峙したミスターの「執念」を振り返る。

 * * *
 私はパ・リーグの選手だったので、長嶋さんと対戦するのはオールスターや日本シリーズだけでした。当時の野球ファンはパ・リーグに関心がなく、日本シリーズで巨人と戦って、それも長嶋さんを打ち取ってようやく全国区になれた。

 そういう意味では、長嶋さんが現役時代の強い巨人と日本一をかけて、2年連続(1971~1972年)で対戦できたのは良い思い出です。

 長嶋さんはデータが全く参考にならないバッターで苦い思い出ばかり。当時も相手チームのデータはありましたが、わざとストライクゾーンを外して投げても、長嶋さんはボール球をパカーンとセンター前に弾き返す。ボール球をヒットにされるのだから投手としては投げるところがなくなり、ピンチでは絶対に対峙したくない打者でした。

 よく覚えているのは、初対決となった巨人がV7を目指した1971年の日本シリーズです。1勝1敗で迎えた第3戦に先発した私は巨人打線を抑え込み、阪急が1対0でリードして9回裏の巨人の攻撃を迎えました。

 しかし、ツーアウト一塁・三塁で4番の王さんに投げた内角ストレートをライトスタンドに運ばれて逆転サヨナラ負け。マウンドに崩れ落ちて、しばらく立ち上がれない私の姿はこのシリーズの象徴的なシーンとして語り継がれています。

 ところが私の記憶に強く刻まれているのは、王さんの前に打席に立った3番の長嶋さんとの対決です。2死一塁の場面で空振りか凡打にさせることを狙って、右打者の外角に逃げていくカーブを投げたら、長嶋さんは体を泳がせながらバットにボールを当てました。打球はボテボテのゴロでしたが、遊撃手のグラブをかすめながらセンター前に転がっていきました。

 その直後、王さんに痛恨のサヨナラホームランを打たれてしまった。この一発でシリーズの流れが変わり、巨人が続く第4戦、第5戦を連勝してV7を達成しました。

 長嶋さんに投げた一球は見送ればボールでした。しかも完全に打ち取ったボテボテの当たりがセンター前に抜けた。セオリーが通じない長嶋さんが放った執念のヒットが今も忘れられません。

【プロフィール】
山田久志(やまだ・ひさし)/1948年、秋田県生まれ。1968年に阪急に入団。1976年には26勝をマーク。最多勝3回、最優秀防御率2回。通算284勝。

※週刊ポスト2025年6月20日号

関連記事

トピックス

インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
PTSDについて大学で講義も行っている渡邊渚さん(本人提供)
渡邊渚さんが憤る“性暴力”問題「加害者は呼吸をするように嘘をつき、都合のいい解釈を繰り広げる」 性暴力と恋愛の区別すらできない加害者や擁護者への失望【独占手記】
週刊ポスト