地上波ドラマに本格復帰する女優・のん(時事通信フォト)
俳優・アーティスト・のん(31歳)が地上波ドラマに本格復帰する。主演しヒットした連続テレビ小説『あまちゃん』からは12年となる。今後、どんな活躍が見込まれるのか?また懸念材料は? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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9日夜、のんさんがメインの一人を務める『藤子・F・不二雄SF短編ドラマ』「換身」(NHK総合)が放送されます。同作は藤子・F・不二雄さんのSF漫画が原作のドラマシリーズ第3弾。NHK BS4Kでは3月25日、NHK BSでは4月3日に先行放送されましたが、ついに地上波の総合テレビに進出します。
のんさんの地上波ドラマ出演と言えば、今春は日本最長の歴史を持つドラマ枠・日曜劇場『キャスター』(TBS系)第3話に続く2作目。また、ドラマではありませんが、今月2日には『あさイチ』(NHK総合)にゲスト出演して朝からXのトレンド入りするなど話題になったばかりです。
「のん」としての地上波ドラマ出演は、2020年に放送された“朗読+アニメ+ドラマ”の異色番組『怖い絵本』その1「いるのいないの」(NHK Eテレ)と、今年4月に声のみで出演した『地震のあとで』第4話「続・かえるくん、東京を救う」(NHK総合)のみ。本格的なドラマ出演は「能年玲奈」として主演を務めた2013年の朝ドラ『あまちゃん』(NHK総合)や2014年の『世にも奇妙な物語’14春の特別編「空想少女」』(フジテレビ系)以来であり、今春の大きな変化が感じられます。
その一世を風靡した『あまちゃん』から12年が過ぎて31歳になったのんさんは、なぜ今求められているのか。今後の可能性なども含め掘り下げていきます。
肩書きの変更からにじみ出た自信
今春の連続出演に際して業界内では「機は熟した」という声があがっています。
女優としての、のんさんは地上波のドラマ出演こそありませんでしたが、ネットドラマでは2018年の『ミライさん』(LINE NEWS)、今年2月の『幸せカナコの殺し屋生活』(DMM TV)で主演を務めました。さらに映画では『あまちゃん』以降、実写の主演だけで8作を数え、複数の映画賞も受賞。さまざまな役柄を演じたほか、映画『Ribbon』では監督・脚本を務め、舞台や朗読などの出演も含めて多くの出会いがあり、着実に経験と実績を積み重ねてきました。
そして迎えた2023年7月13日。のんさんは30歳の誕生日に毎日新聞の朝刊で、肩書きを「女優・創作あーちすと」から「俳優・アーティスト」に変更しました。
のんさんはその理由について、「ちょっとハードルを下げて、自分の好きなように自由にやりたかったから、『創作あーちすと』と平仮名でおとぼけていた。そして“のん”になって、色んな人と色んな場所で色んなものを作って、私はどうやったって作りたい人なんだってことが分かった。根拠のない自信が確固たる自信に変わった。だから肩書き変えます」とコメント。芝居、音楽、創作で感性が磨かれたのんさんが30歳の節目に「確固たる自信」を宣言したことはインパクトを与え、地上波ドラマ出演への待望論があがりました。
そもそも能年玲奈からの改名は所属事務所との独立トラブルによるものであり、それがテレビ出演の障害となり続けてきましたが、ここ数年間で徐々に芸能界の風向きが変わりはじめていました。
きっかけになったのは2019年7月に報じられた公正取引委員会によるジャニーズ事務所への注意。「退所者のテレビ出演に圧力をかけた場合、独占禁止法にふれる恐れがある」などと注意したことが報じられた影響で、少しずつ芸能人の移籍や独立がしやすくなり現在に至っています。
さらに2023年、ジャニーズ事務所の創業者による騒動から、大手芸能事務所に対するテレビ局の忖度が視聴者やスポンサーから問題視され、徐々に改善されていきました。今春、のんさんが民放のTBS、しかも看板枠の日曜劇場に出演したことで、「これでようやく見られる」と待望論がさらに高まるのは当然でしょう。