今度は店に電話をかける。
「キャストは大きなショックを受けています。むりやり襲われたんですからね」
マネジャーを名乗る木本の喋りは、芝居がかった口調に思われた。
「デリヘルは本番禁止ですし、キャストは、本番なしのサービスを専門にしているプロフェッショナルで、売春婦じゃないですよ。もちろん、官僚さんがそんなの、知らないわけないですよね」
私は確信した。木本は気づいていない。約半年前、51歳の依頼者から今回とまったく同じような事案で相談があった際に、代理人として私が、木本とやりとりをしていたことを。録音しておいた音声データを聴き直したが、同じ奴だ。声も変わらない。だが、喋り方は少し違う。あの時はもっとウブだった。
「襲われて怪我もしたんです。全治1週間。水田刑事に診断書もお渡ししました」
前回と同額の20万円で示談を求めると、木本は鼻で嗤った。
「うちのグループの規則がありまして。故意でも、そうでなくても、本番行為のような形になってしまった場合は、性病の検査を受けなきゃならないんです。精密検査なので、土日を挟んで7日間も彼女は働けません。それから、怪我もしているので、あともう1週間働けない。彼女の1日の売上は、平均で4万円なので」
嘘つけ、いけしゃあしゃあと。
「だから、怪我の7日と性病の検査期間の7日で、合わせて14日。1日4万円なので、休業補償でまず56万円ですね。それから慰謝料。まあ、同額でしょう。謝罪する気持ちがあるんですよね?」
返答する暇も与えずに、ペラペラとよく喋る。
「だから、56万の倍で、112万!」
私は、のんびりした声で話しかけた。
「どうでしょうねえ。依頼者からは故意ではないと聞いています」
「でも、本番やっちゃったのは事実でしょ」
「男性器と女性器が接触したのは事実のようですが、それが偶然なのか、事故なのか……どうでしょうねえ」
「被害届も受理されて、警察の捜査も始まっていますけどね」
「騒ぎになると、お互い、得にはならないでしょうしねえ」