「困っているなら仕事あるよ」
「寮を出なくちゃいけなくなったので、車を売ったんです」
短いホスト暮らしの間、和歌山から乗ってきたアウトバックを無償で庭に置かせてくれたのは、君津(千葉県)の工場に就職していた高校の同級生だった。
「うーん友達かな、知り合いですかね。すごい親切にしてくれて。とりあえず、まだ東京にはいたかったので、中野にある家賃5万円のアパートに入りました。保証人は、お母さんに頼みました。一応、会社員なんで、それで大丈夫だったんです。やっぱり、音楽やりたいなと思って、車がけっこういいお金になったんで、ギター買って。新宿の甲州街道沿いのところで、久しぶりにストリート・ライブをやったんです」
すると演奏に立ち止まってくれた人がいた。
「自分よりは年上に見えました。20代後半ぐらいかな。ちゃんとスーツ着て、あっでも、靴は紫色でしたね。いろいろ話したら、『困っているなら仕事あるよ』って」
紫色の靴を履いた男は、丸山さんをタクシーに乗せて百人町の雑居ビルに連れて行った。
デリヘルで働く女性たちの待機所の奥、衝立で仕切られたスチールデスクに座っていた若い男は「女性向け風俗店の店長」だと名乗った。
(第2回に続く)