3か月も経たずに終わったホスト見習い生活
ある日、丸山さんはその中古のアウトバックで夜逃げするように東京へ向かい、歌舞伎町の見習いホストになった。誰の紹介でもなく、SNSを介して自分で店に連絡したのだという。
「面接してくれた幹部の人は親切だったし、1か月4万円の寮費以外にはお金もかからないので、けっこういいかなと思って」
しかし、見習いホストの仕事は、丸山さんが想像していたよりはるかに過酷なものだったそうだ。
「ホストって、人を楽しませるのが仕事じゃないですか。だから音楽とか映画とかにも詳しくて、もっと遊んでいるのかと思ったら、全然そうじゃなくて、びっくりしました。真面目っていうか、店にいない時でも、ずっとお客さんにLINEか電話してるんですよ。ヤバくないですか」
ヤバいかどうかは知らないが、ナイトビジネスとして成功を収めているホストは真面目というか、マメな人が多い。マメでなければ、数多の女性と同時並行で疑似恋愛することはできないだろうし、幸福な気持ちにいざなうことも難しいだろう。
歌舞伎町は、大きく打てば大きく響き、小さく打てば小さく響く。要は、本人がどれぐらいのめり込めるか。その態度次第で見える世界がまるで変わる不思議な場所なのだ。
丸山さんはさっと表面を撫でただけで、ホストの世界を軽く見てしまった。人生を賭けている仕事を軽く見られた者たちは、当然ながら丸山さんを歓迎しなかった。そんなわけで、彼のホスト見習い生活は3か月も経たずに終わった。