こうして丸山さんと亜李紗は、店に無断でホテルに入ることにした。たった一晩で、10万円を稼ぎ出す生活の第一歩である。
ところが、ホテルに入ってすぐ、ペットボトルの紅茶を飲みながら雑談を始めたばかりのところで、亜李紗の電話がしつこく震えた。それから、LINEの通知。見るなり、彼女は叫んだ。「えっ、ヤバッ、お母さんが倒れた!」。
「それで、すぐ出て行っちゃいました。口では、ごめんなさいとか言ってましたけど」
ロングの支払いは?
「まだです。支払いはシャワーの前になってからなんで」
この時点ではまだ、丸山さんは迫りくる危険に気づいていなかった。翌日には、美香からデートの指名も入っていたので、ロングのチャンスが消え失せても、のんびりしたものだったという。
3日後、亜李紗からメッセージがきた。「今週のうちにロングをしたい」と言うので、丸山さんは申し出を受けた。もちろん、店には知らせていない。翌日、午前8時からお試しの客がいるというので百人町の事務所に行くと、女性の姿はどこにもなく、代わりに険しい顔をした店長と、さらに怖い顔と体つきをした2人の男がいた。
「裏引き、やっちゃいましたね?」
店長が重々しく口を開いた瞬間、丸山さんは恐怖に飲み込まれた。