大谷がこだわる回転効率とはなにか
「3回の登板はすべて球種の傾向が変わっている」と指摘するのは、データ分析に詳しいスポーツジャーナリスト・広尾晃氏だ。
復帰後1回目(6月16日=28球)は、フォーシーム9球、シンカー8球、スイーパー10球、スプリッター1球。復帰後2回目(6月22日=18球)は、フォーシーム6球、スイーパー7球、スプリッター2球、カットボール2球、スライダー1球だった。
「1回目はフォーシームより3キロほど遅いだけのシンカーが右打者の内角に有効で、2回目は変化量の大きいスイーパーが有効でした。3回目はスライダー(縦スラ)4球のうち3球が空振り。まだ投球はテスト段階ですが、武器になっていくと思います」(広尾氏)
そうして球速や球種が注目される大谷だが、本人が術後に重視してきたのは、ボールの「回転効率」だという。3度目の登板後も報道陣に直球(フォーシーム)の質を問われ「回転効率も球速帯との比較が一番大事だと思う。100マイルが出ても浮力は悪くなかったし、それなりのスピン効率はしていたと思う。進歩はしているのかと思う」と答えている。
大谷がこだわる回転効率とは何か。広尾氏が解説する。
「回転効率とはボールの回転数がどれぐらい変化量に反映するかを示す数値です。0~100%で表され、数値が高いほど回転のロスが少なく、変化量に反映されている。ボールの動きは“回転数×回転効率”で決まります。
回転数が高くても回転効率が悪いと縦の変化が小さくなり、逆に回転効率がいい(100%に近い)と球がホップする(浮き上がる)軌道となります。つまり、きれいなバックスピンがかかっていれば回転効率は100%となる。球の握り、リリースの腕の角度などいくつも要素が影響します。大谷の回転効率は2023年が75%前後でしたが、今は90%に迫っています。大谷のフォーシームはホップして、打ちにくくなっていると思います」
前出の友成氏は回転効率に関して、他の日本人投手と比較してこう言う。
「球が遅くてもホップするピッチャーがいます。その代表がカブスの今永昇太。メジャーの平均球速は151キロのところ今永は147キロですが、回転数は2400台で回転効率は99%。ホップの大きい直球を武器に昨年は174奪三振をマークしている。通常ならホームランとなるストライクゾーンの高目で空振りや凡フライに打ち取ることができる。
その逆がドジャースの佐々木朗希で、球速が158キロぐらい出るのに、スピン量が1900回転。佐々木はナチュラルシュートを投げるが、軌道が読める速球を投げるといわれています。いわゆるシュート回転した棒ダマ。一方の大谷はあのスピードで、あの回転量を持ち、回転効率がいい。鬼に金棒ですね。もちろん不安はあります。手術前以上のスピードと回転の質を持つ球を投げることで、物理的に肩やヒジへの負担が心配になるところではあります。焦らずに調整を進める必要があるでしょう」
わずかな懸念も払拭して、本格的な二刀流復帰にたどり着くことを皆が願っている。
※週刊ポスト2025年7月18・25日号