ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(番組公式HPより)
特撮ヒーロー出身のイケメン俳優
ちなみに『ふてほど』でも昭和時代の「ムッチ先輩」こと秋津睦実だけでなく、令和時代の秋津真彦との2役を演じ、しかも「後に2人が親子とわかる」という難しい設定の役柄。これを難なく演じた上で対峙した河合優実さんらの魅力を引き立てたことも含め、評価を集めました。
映画ではさらに振り切った役柄を演じることも多く、制作サイドが「知名度がある上にそれに負けない演技力を持つ磯村勇斗に頼る」という状態が続いています。
今夏の作品でも前述した稲垣吾郎さんと堀田真由さんのほか、光石研さん、尾美としのりさん、木野花さん、坂井真紀さん、市川実和子さん、平岩紙さんら演技巧者のほか、高校生役の若手俳優がそろう中で主演を務めること。さらにその役柄が「独特な感性があり、不登校の過去を持つスクールロイヤー(学校弁護士)」という難役であることからも期待値の高さがわかるのではないでしょうか。
そんな実績も実力も十分の磯村さんが、なぜこれまで民放連ドラの主演を務めてこなかったのか。今夏の初主演が発表されたときも、ネット上ではこれまで深夜帯ですらそれがなかったことに驚きの声があがっていました。
1つ目の理由は、前述したようにドラマと映画の両方から、替えの効かない若手最高峰のバイプレーヤーとして重宝されてきたから。実は磯村さんが演じてきたクセのある難役を高いレベル演じられる俳優より、主演を担える俳優のほうが多いのです。
そして2つ目の理由は、“特撮ヒーロー出身のイケメン俳優”というイメージ。磯村さんは2015年に『仮面ライダーゴースト』(テレビ朝日系)で仮面ライダー、2017年に『ひよっこ』で主演・有村架純さんの相手役を演じたことで、当時は世間から“特撮ヒーロー出身のイケメン俳優”と見られやすいところがありました。
主演はアラフォーとアラフィフばかり
だからこそ前述したような学生時代や大学中退後の下積みが知られる機会は少なく、毎年のように誕生していた「特撮ヒーロー→朝ドラ相手役の1人」と一緒くたにされた感があったのです。朝ドラ相手役を務めた俳優はその後、民放連ドラで主演を務めることが多いのですが、磯村さんはむしろバイプレーヤーとして幅広い役柄を演じることで着実に業界関係者と視聴者の信頼をつかんでいきました。
すでに磯村さんに“特撮ヒーロー出身のイケメン俳優”というイメージはなく、視聴者にイケメンであることを忘れさせるほどの演技力を印象付けています。初主演は今ならイケメンなどの先入観なく磯村さんの演技に集中してもらえる絶好のタイミングということなのかもしれません。
さらにこのところ男性の主演俳優がアラフォーやアラフィフ中心になっていることも、アラサーの磯村さんにとって「機が熟すのを待つ」ようなムードだったのではないでしょうか。
実際、今夏のゴールデン・プライム帯民放連ドラで主演を務める俳優をあげていくと、中村倫也さん(38歳)、松本潤さん(41歳)、相葉雅紀さん(42歳)、櫻井翔さん(43歳)、斎藤工さん(43歳)、小澤征悦さん(51歳)、藤木直人さん(52歳)、大森南朋さん(53歳)、阿部サダヲさん(55歳)、上川隆也さん(60歳)と、すべて磯村さんより年上で大半がアラサーかアラフィフ。現在の民放連ドラでは女性の主演は20代前半から30代後半が多い一方で、男性の主演はアラフォーとアラフィフが中心であり、今夏はアラサーの磯村さんが入っていることが評価の高さを裏付けています。
はたして『僕達はまだその星の校則を知らない』はどんな作品なのか。少なくとも今後、数十年活躍していくであろう磯村さんの記念すべき民放連ドラ初主演作というだけでも見て損はないでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。