記者会見の退出時に一礼する自民党の鶴保庸介参院議員。7月9日、和歌山県庁(時事通信フォト)
何度も繰り返されてきた政治家の失言と謝罪のなかでも、悪い意味で人々の記憶に残り続けるだろう失言と謝罪をしたのは、自由民主党の鶴保庸介参議院議員だ。2025年は非改選のため被選挙者ではないが、当選5回で2022年には永年在職議員の表彰をうけた議員の謝罪は、ときどき浮かべる薄ら笑いに、さらに批判が殺到した。臨床心理士の岡村美奈さんが、鶴保議員の謝罪に欠けていたことについて分析する。
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自民党の鶴保庸介参院議員が、7月14日、参院予算委員長の辞任願を提出し許可された。参院選の応援演説のため、8日に和歌山市で開かれた集会で「運のいいことに能登で地震があったでしょ」などと発言したためだ。辞任は当然だが、彼の謝罪会見を見ると遅いくらいだ。
失言があったのは、応援演説で「2地域居住」の推進について話していた時のこと。能登半島地震の被災者が、緊急避難的に居住地域以外でも住民票がとれるようになったことを受け、「やればできるじゃないかという話になった。チャンスです」とにこやかな顔を見せたのだ。被災者にすれば、運のいいチャンスどころではない。彼の頭の中には、自身が進める政策しかなかったのだろう。
それは被災地の地名を覚えていないことでも明らかだ。「能登で地震があって、上の方であったのは、輪島だとか、たま…、なんだっけ」と言葉に詰まり、左手を上に挙げて方向を示そうとした。”たま”は被害にあった石川県珠洲市のことだろう。普段は被災地や被災者に寄り添うという議員が、被害があった市の名前すら覚えていない。被災地に関心がないという印象は拭えない。
批判が相次いだことで、同日深夜に撤回するコメントを発表。9日には記者会見を開いたのだが、これまたお粗末な会見だった。「陳謝以外にありません」と視線を落とし、しおらしい表情で謝罪。身体を起こして、堅い表情で経緯を説明したものの、謝罪の姿勢を見せたのはこの時だけ。会見場にのたのたした歩き方で現れた姿は、謝罪する人間の立ち居振る舞いではない。椅子に浅く座ると背もたれにもたれる。開始直前に胸元からペンを取り出し持参した紙に“被災地訪問”とメモ。どれをとっても謝罪に似つかわしくない。
先日、国分太一さんのコンプライアンス違反による番組降板を受け、解散した元TOKIOの松岡昌弘さんの会見と比べてみると、謝罪姿勢の酷さが目につく。背筋を伸ばし、謝罪する度に被っていた帽子を脱いで頭を下げた松岡さんに対し、鶴保議員は自らの失言なのに、「被災地への配慮が足りなかったと言われれば、まったくその通りで」と述べ、「陳謝の上、撤回させて頂きたいと思います」と口元を真一文字に結んだものの、頭を下げることはなかった。「思った発言ではない」、被災地への思いは変わらないと飄々とした表情で淡々と述べたが、話し方や声のトーンには強さも重みもなく、被災地への思いはまったく伝わってこない。