公判は福岡地裁で行われた(時事通信)
「被告人の実刑は社会的損失」
証拠調べを終え、検察官からは、被告人の献身的な介護の姿勢と、夫、親族の言動に配慮のなさを認めながらも、その傷ついた気持ちも伝えるのも容易だったと指摘。一時の感情で、なんら落ち度のない娘の命を奪った結果は重大。寝室の夫に妨害されないようドアノブを固定した点なども強固な犯意とし、介護疲れを否定したことからも罪の軽減事由は存在しないとして、殺人罪の法定刑の下限である懲役5年を求刑した。
弁護人は、一般的に実子との心中事件において、「介護疲れ」と聞くと前途を悲観したものを想像されやすいが、本件が前例と大きく異なる、献身的な介護の末の事件だと主張。また被告人が「介護疲れによる犯行でない」と主張したのは、娘の人生やヘルパーなどの支えを否定することに繋がるためであるとも補足した。
弁護人はさらに続けた。被告人は結果的に娘の命を奪ったが、心菜さんの命は被告人のおかげで7歳まで繋ぐことが出来たとこも評価すべき。事件のことは激しく後悔しており、判決にかかわらず一生罪を背負っていく覚悟も持っている。そして、誰よりも介護の必要性を把握している被告人を刑務所に入れる行為は社会的損失であり、孤立させずに支援することが更生に繋がるとして、執行猶予判決を求めた。
被告人に最終陳述の機会が与えられた。10秒ほど沈黙の後、話し始めた。
「心菜がお世話になった方々に対しては、心菜を一緒に育てて、成長を一緒に見てきたのに、裏切った気持ちで、本当に申し訳ありません。新薬ができて、心菜が体調を崩すこともなくなってきていました。大学の協力もあり、コミュニケーションを取ろうとしているなかで、心菜の未来を奪ってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
心菜には20年くらい生きて欲しかったんですけど、こんなことして自分は生き残って……一生苦しみ続けます。どんなに苦しみ続けても、心菜は戻ってきません。すごく後悔しています」
7月18日、被告人には懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の判決がくだされた。被告人は刑務所に入らずに、自ら犯した罪を向き合い続ける。
(了。第1回から読む)
◆取材・文/普通(傍聴ライター)