公演でチャップリンの言葉を投影する(撮影/西野嘉憲)
「沖縄では、戦争ってぜんぜん過去じゃないんです」
戦後80年の今年、まーちゃんが挑んだコント一つは「シュウダン・ジケツ」だ。集団自決のことである。カタカナ表記にしたのは漢字だと戦争体験者の記憶に直結し、刺激が強過ぎるからだという。まーちゃんが説明する。
「沖縄に住んでいると、戦争ってぜんぜん過去じゃないんです。今年も戦後80年ということで、集団自決について初めて口を開いたという人が出てきたりしている。80年間、しゃべれなかった。集団自決って、悲惨なんてものじゃないですからね」
太平洋戦争の末期、アメリカ軍は日本本土の前線基地とするために沖縄に上陸し、地上戦を展開した。その際、日本軍は沖縄の住民にアメリカ兵に捕まったらいかに酷い目に遭うかを説き、捕虜になるくらいなら戦って死ぬか自決せよと命令あるいは誘導したとされている。実際には捕虜となり助かった人もいるのだが、その話を真に受けた住民も多く、沖縄のいたるところで集団自決が起きた。
まーちゃんが顔をしかめる。
「手榴弾もない、刺すものもないというとき、何をしたと思います? 撲殺ですよ。木の棒で。僕らがコントでやったように父ちゃんが『みんなで死ぬぞ』って言って。父ちゃんが家族を一人ずつ殺していくんですよ。ちっちゃい子どもは父ちゃんが母ちゃんを殴り殺すのを間近で見てる。よくわからないうちに自分も殴られる。ある人は気絶していて、起きたら家族がみんな死んでいて、父ちゃんは首を吊っていたとか。おかしいでしょ? ぜんぜん意味がわからない。狂ってますよね? そんなことを言う方も、従う方も。でも、それが戦争なんですよ」
コントの中では家族の一人が父親にこう言い返す。
「なんでわざわざみんなで死ぬの? ばかじゃない?」
そして最後、戦争のあらゆる欺瞞に気づき、こう声をそろえる。
「戦争って、くだらねー」
戦後80年におけるまーちゃんの渾身のツッコミである。
(後編に続く)
【プロフィール】
中村計(なかむら・けい)/1973年、千葉県生まれ。ノンフィクションライター。『甲子園が割れた日』『勝ち過ぎた監督』『笑い神 M-1、その純情と狂気』『落語の人、春風亭一之輔』など著書多数。