スポーツ

《暴力問題の波紋》”広陵高校まつり”で盛り上がった人たちが得た「快感」「賞賛」…その一方で失った大事なもの【石原壮一郎氏考察】

8月10日に史上初となる大会期間中の不祥事による出場辞退を発表した会見

8月10日に史上初となる大会期間中の不祥事による出場辞退を発表した会見

 夏の甲子園大会に出場していた広島・広陵高校が一連の暴力問題から出場辞退を発表した。SNSでは辞退発表前から真偽不明のものも含めて多くの情報が飛び交い、いわゆる「まつり」状態になっている。そのまつりに参加した人は何を得て、何を失ったのか? コラムニストの石原壮一郎氏が考察する。
 
 * * *
 甲子園では今日も熱戦が繰り広げられています。それはそれとして、この夏の大会はグラウンド以外の話題で大きな注目を集めました。そう、大会の途中で出場を辞退した広陵高校をめぐる問題です。

 部内で起きたという「暴力事件」をめぐって、ネット上にはさまざまな情報が錯綜。SNSやネットニュースのコメント欄はこの話題で大いに盛り上がり、YouTubeでも真偽不明の関連動画が山のようにアップされるなど、いわゆる「まつり」の状態になりました。

 もちろん、暴力行為の加害者には罪をきっちり償ってほしいし、報道で伝えられる学校の対応には多くの疑問を抱きます。ただ、ここでは誰が悪いとか何がケシカランといった話をしたいわけではありません。そのへんについては、もっとふさわしい人たちが、きちんと検証したり手を打ったりしてくれることでしょう。

 ネット上では次々と新しい「まつり」が発生しています。芸能人やCMや飲食店など、おもに怒りの感情をぶつけて盛り上がる対象はさまざま。今回の広陵高校をめぐる騒動も、結果的には社会を変えるきっかけになるかもしれませんが、ネット上で過剰に熱くなっている人たちにとっては、都合よく盛り上がれる「まつり」のひとつに過ぎません。

 ネットやSNSという「怪物」とどう付き合っていくかは、誰にとっても重要な問題です。うっかり飲み込まれず、その力をなるべく上手に活用するために、今回の「広陵高校まつり」で盛り上がった人たちが、何を得て何を失ったのかを考えてみましょう。

達成感、満足感、強い自分のイメージ……など多くを得られる

「まつり」への参加の仕方は、濃淡さまざま。神輿を担いで声を出し続けている人もいれば、ケンカしたくて誰彼かまわずイチャモンを付けまくる人もいます。雑踏をそぞろ歩いて雰囲気を味わったり、遠くから花火を眺めたりして楽しむ人もいます。

 もっとも多いのは、「正義感」や「義憤」にかられて、日常生活では口にしない強い言葉をネット上に書き込みまくるという参加方法でしょうか。そういう人たちは何を得たのでしょう。

「悪者を成敗してやったという達成感」や「間違ったことを黙って見過ごせない自分に対する満足感」あたりは、たっぷり得られそうです。ふだん使ったことがない激しい言葉で誰かを罵倒することで、言いたいことを言えずに過ごしている日々で蓄積されたストレスが解消されたり、イメージ上の「強い自分」にウットリできたりもするでしょう。

 加害者とされる生徒の顔写真を並べるなど、やりたい放題のYouTube動画も大量にアップされています。発信者にとって情報の真偽はどうでもいいし、もし間違いだった場合に責任を取る気なんて毛頭ありません。大切なのは目先の収益や、自分の「作品」が多くの人に見られて反響があったという快感を得ることです。

 そこまで積極的に参加したわけではない通りすがりのヤジ馬でも、ネット上に「まつり」の話題を書き込むことで、カッコいい自分や気が利いたことを言える自分を示せた満足感は得られるでしょう。SNSの投稿に加害者とされている生徒の名前をわざわざ書くことで、情報通な自分やワイルドな自分になれた気分も味わえそうです。

 こうして並べてみると、ネット上の「まつり」は、なんてたくさんのものを与えてくれるのでしょうか。多くの人が「まつり」に熱狂するのも無理はありません。

関連キーワード

関連記事

トピックス

24時間テレビで共演する浜辺美波と永瀬廉(公式サイトより)
《お泊り報道で話題》24時間テレビで共演永瀬廉との“距離感”に注目集まる…浜辺美波が放送前日に投稿していた“配慮の一文”
NEWSポストセブン
芸歴43年で“サスペンスドラマの帝王”の異名を持つ船越英一郎
《ベビーカーを押す妻の姿を半歩後ろから見つめて…》第一子誕生の船越英一郎(65)、心をほぐした再婚相手(42)の“自由人なスタンス”「他人に対して要求することがない」
NEWSポストセブン
ネット上では苛烈な声を上げる残念な人がうごめいている(写真/イメージマート)
ネットで見かける残念な人たち…「朝ドラにイチャモン」“日本人じゃないと思う”の決めつけ【石原壮一郎さん考察】
NEWSポストセブン
荒川区には東京都交通局が運行している鉄道・バスが多い。都電荒川線もそのひとつ。都電荒川線「荒川遊園地前」そば(2020年写真撮影:小川裕夫)
《自治体による移動支援の狙いは》東京都はシルバーパス4割値下げ、荒川区は実質0円に 神戸市は高校生通学定期券0円
NEWSポストセブン
阪神の主砲・佐藤輝明はいかにして覚醒したのか
《ついに覚醒》阪神の主砲・佐藤輝明 4球団競合で指名権を引き当てた矢野燿大・元監督らが振り返る“無名の高校生からドラ1になるまで”
週刊ポスト
韓国整形での経験談を明かしたみみたん
《鼻の付け根が赤黒く膿んで》インフルエンサー・みみたん(24)、韓国で美容整形を受けて「傷跡がカパッカパッと開いていた…」感染症治療の“苦悩”を明かす
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
「戦争から逃れてアメリカ移住も…」米・ウクライナ人女性(23)無差別刺殺事件、犯人は“7年間で6回逮捕”の連続犯罪者
NEWSポストセブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《眞子さんが見せた“ママの顔”》お出かけスリーショットで夫・小室圭さんが着用したTシャツに込められた「我が子への想い」
NEWSポストセブン
大ヒット上映を続ける『国宝』の版元は…(主演の吉沢亮/時事通信フォト)
《映画『国宝』大ヒット》原作の版元なのに“製作委員会に入らなかった”朝日新聞社員はモヤモヤ  「どうせヒットしないだろう」とタカをくくって出資を渋った説も
週刊ポスト
米マサチューセッツ州で18歳の妊婦が失踪する事件が発生した(Facebookより)
【犯人はお腹の子の父親】「もし私が死んだらそれは彼のせい」プロムクイーン候補だった18歳妊婦の失踪事件「# findKylee(# カイリーを探せ)」が最悪の結末に《全米に衝撃》
NEWSポストセブン
不倫の「証拠」にも強弱がある(イメージ)
「不倫の“証拠”には『強い証拠』と『弱い証拠』がある」探偵歴15年のベテランが明かすまず集めるべき「不貞の決定的証拠」
NEWSポストセブン
違法賭博胴元・ボウヤーが激白した「水原と大谷、本当の関係」
《大谷から26億円送金》「ヘイ、イッペイ。翔平が前を歩いてるぜ」“違法賭博の胴元”ボウヤーが明かした「脅しの真相」、水原から伝えられていた“相棒の素顔”
NEWSポストセブン