トラとミケ 7 ~まぶしい日々~』/ねこまき(ミューズワーク)/小学館/1540円
【書評】『トラとミケ 7 ~まぶしい日々~』/ねこまき(ミューズワーク)/小学館/1540円
【評者】須田亜香里/タレント。1991年生まれ。愛知県名古屋市出身。元SKE48第3期生でチームEリーダーを務めた。現在は多方面で活躍し、中日新聞でもコラムを執筆中。2025年9月公開予定の映画『男神』に出演。
一日が終わる前に本を開く楽しみを知った。帰り道、いつもの店に寄り道をして、「今日は何が食べられるかな?」って。この物語の中で生活する猫たちが“どて屋 トラとミケ”ののれんをくぐり、コの字型のカウンターに座るように、ワクワクしながら本の扉を開けてみる。この店に寄れば、今日という日を「いい日」で締め括れそう。そんな気がするから。
温かいけど、眩しくない。柔らかな色彩のカラーページが迎えてくれる。しかも最初から最後までずっと。私の中で漫画のカラーページといえば、最初の数ページだけ用意されているプレゼントのようなイメージ。基本はモノクロの世界が当たり前だと思ってきたからこそ、オールカラーってだけでかなり得した気分になれる。ぜひ注目していただきたいポイントは、イラストの色の濃淡。地道に重ねられた工程がよりリアルに感じられて安心する。
更にもう一つ、視覚で楽しむべきポイントは、手書きの文字。印刷物なのに、人の温かみが確かに手元に在る。デジタル化が進み続ける現代で、均一に整った文字と向き合いながら必死に生きているからこそ胸に沁みる。手紙のような一冊。
物語の中で起きることは決して平穏なことばかりではない。時に切なく、胸が痛むような話もあれば、まさに自身と重なる悩みもリアルに描かれる。
ちょうど私が漠然と抱えている人生の不安。仕事ばかりしていたら未婚のまま33歳になっていたこと。酒を酌み交わして支え合った仲間たちが次々と結婚して家庭を築き、生活も価値観も変わってしまったこと。親孝行とは一体何か。
生々しいはずなのに、トラとミケの世界では重苦しい気持ちにならない。色味が素敵だから? 文字が手書きだから? 登場人物が猫だから? ずしんと現実を突きつけられたかと思えば、ページをめくるごとに優しく励まされる。現実逃避じゃない。「どこにでもいる誰かの生活」だからこそ胸に響く。
物語の世界はおそらく私が生まれ育った名古屋。走っているのは多分あの電車。出てくる駅はあそこの駅。飛び交う名古屋弁は親戚や家族と過ごしているようでホッとする。“どて屋 トラとミケ”は実在するのかもしれない。そんな好奇心を持つたびに人と人、いや、猫と猫の温かさに救われる。
トラさん、ミケさん、ごちそうさまでした。明日も頑張れます!
※女性セブン2025年9月4日号