駆除された個体は岩尾別の母さんとして地元では有名なヒグマだった(中島拓海さん@TakumiNakashima提供)
「私が財団にいた頃は、ヒグマにゴム弾を当てて嫌な思いをさせ、人間に近づかないようにしていたんです。でも、私には近づかなくても、別の人に近づいてきたことはありました。それぐらい知床のヒグマは人を恐れない。全く気にしない、空気みたいな存在になってしまっているんです。
ヒグマに人は恐い、会ったら恐い思いをするという事を学習させないといけない。それが、最近ではクマに近づいて撮影するなど、人間から近づいてしまっています。その上、登山客が食べ物の入った荷物を置いていってしまい、その食べ物を食べて味をしめてしまう、なんてこともあるんです」
さらに石名坂氏は、今回の事故現場となった登山道が、以前から現地ガイドの間で危険視されていた場所だったと解説する。
「実は今回の事故が起きた登山道の脇は、アリの巣が沢山出来る場所でした。餌の少ない夏場は、餌場としてヒグマがアリの巣にいる幼虫を大量に食べるんです。だから、過去にもヒグマが出ていたヒヤリハット地点でした。私の在籍時は注意喚起の看板も出していましたし、今回も看板はあったと思いますが、初めて来る方にはそこまで響かなかったのかもしれません」
石名坂氏は最後に、今回駆除された個体だけに責任を押し付けるのは危険だと指摘する。
「今回駆除されたヒグマだけが、8月に登山客に近づいた一連の問題を起こした個体ではありません。他にもいるはずです。すべてを今回のヒグマに押し付けて問題解決とするのは非常に危険で、次の事故を防ぐためにも早急な対応が必要です」
14日の事故直後から羅臼岳は入山が規制されたままだ。