日本のリケジョの草分け、猿橋賞を創設した猿橋勝子の凜とした生涯
カレンダーは9月に突入したが、まだまだ暑いこの季節。涼しい部屋の中で読書を楽しみましょう! おすすめの新刊4冊を紹介します。
『翠雨の人』伊与原新/新潮社/1980円
猿橋勝子の生涯(1920~2007年)を、同じ地球科学者の著者が敬慕の念で描く。雨の不思議に魅せられた少女は長じて原子爆弾に心を痛め、ビキニ水爆実験に憤り、人工放射性物質を測る日米対決で米国の鼻を明かす。「怖い」と「面倒くさい」は男が女をマウントする時の常套句。冒頭で猿橋を「面倒くさい人」とする場面にぎょっとしたが、解題はある。清潔な文章を今回も堪能。
8コママンガとエッセイで伝える著者の「ほそぼそと元気な日常」
『ご自愛さん』矢部太郎/PHP研究所/1650円
自然体で暮らす著者の日常がいぶし銀の魅力。朝のスムージー、就寝前のお灸など新しい変化もあれば、レーシック手術をするかどうかで悩み“今のままでいい”と決断、個展に向かって久々に絵筆を持ち、デジタルでは得られない楽しさを再発見する。タイトルは手紙などの最後に書く「ご自愛ください」から。著者のマンガは、読者に届けと願う「ご自愛ください」だったのだ。
時代を追って学ぶ日本美術の流れ。他国にはない独創性に改めて驚嘆
『ドラえもんと学ぶ日本美術超入門』原作/藤子・F・不二雄 監修/山下裕二 小学館 3300円
印刷が素晴らしい! 絵巻、墨絵、屏風、幽霊画、浮世絵に限らず、縄文土器、茶碗、甲冑、螺鈿、蒔絵など工芸の世界へも案内される。雷や風など見えないものも描く日本美術は「世界でいちばん素晴らしい」と言う山下先生の弁は決して誇張ではないと思う。昨年発見されニュースにもなった本書収録の円山応挙と伊藤若冲のコラボ屏風。東京では、この9月末に初公開される。
日本人作家、史上初の快挙。英国推理作家協会賞・翻訳部門の栄冠に輝く
『ババヤガの夜』王谷晶/河出文庫/748円
身長170cm超、体重75kg前後の新道依子は新宿で乱闘中、女の珍獣としてヤクザに“捕獲”される。親分の家で命じられたのは古風な服装で花嫁修業にいそしむ令嬢・尚子のボディガード。お互い理解に苦しむ存在である二人がどう変化していくのか。ババヤガとはスラブ民話に出てくる魔女のこと。女の価値に逆らった、または価値圏外に飛び出た魔女達の有り様にグッとくる。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年9月11日号