下水管が壊れて汚水が上からたれていた
「近くでアヘン患者に人工麻薬を配っていた」
「部屋は2LDKで家賃1万5000円くらいでシャワー、 トイレ付。同じランクだと5万円くらいはしたはずです。安くてボロくても3万円はするので、その半額という格安物件でした。
とはいえ九龍城砦がヤバいところだとは知っていたので、不安で3回通いました。ですがまあ大丈夫かなと……。私の部屋は14階。エレベーターもなく、毎日何往復も上り下りしていました。大変でしたよ(笑)」
そこは単なる住居ではなく、1つの街のようだった。
「食品工場や食堂、理髪店など 、店舗もたくさんありました。1、2階はお菓子や点心とかの食品工場がたくさんあったのですが、空気は澱んでいました。下水管が壊れて汚水が上からたれていて、匂いもきつくて日も当たりません。年老いた売春婦が客引きをする売春宿や、違法賭博をしている賭場もありました。60、70年代にはストリップもあったそうです。
住んだのは5か月ほどでしたが、アヘン患者の治療施設がどぶ川の対岸にあったこともあり、様子がおかしい人もたくさんいました。しかも治療施設では、国が作った人工麻薬を配っていたんですよ。 そこに患者が来るわけだから、飛んで火に入るなんとやらで……。ヘロインの密売人が捕まえて、九龍城砦に引き込んでいるのも見ました」
吉田氏が当時撮影した写真にうつるのは“the違法建築”。地震があったらすぐにでも崩れてしまいそうなくらい歪で、無資格の居住者らが好き勝手に増改築を繰り返し、当時の形になったようだ。内部では電気系統などの配線が入り乱れ、水捌けの悪い路面はびしょびしょ。しかしそこを裸足で歩く住民の姿もある。
このような劣悪な環境ながら、医療面は優れていたという。