実際に壊されたのは1993、1994年だった
「ブラックジャックみたいな医者がたくさん」
「文化大革命によって亡命してきた医大卒のブラックジャックみたいな優秀な医者がたくさんいて、安く診てもらえました。腕は良かったと思います」
そんな九龍城砦は、1984年に中英共同声明で香港の返還が決まったことで、1987年に取り壊しが発表された。1993年には実際に壊され始めた。
「1987年に 日本に帰国したのですが、当時アナーキストが流行っていたんです。カブれた奴らは国家権力から離れた自由な世界の実現を掲げていて、よく論争しました。そこで私がよく話していたのは『自由な世界の結末は臭くて衛生環境がめちゃくちゃになる』という九龍城砦での実体験。アナーキストたちを、一瞬で論破していました(笑)」
吉田市議は、行政に対する議会質問で厳しく問い質す様子がSNSでバズったこともある。“論破の技術”は九龍城砦での生活で身についたのかもしれない。
「九龍城砦で暮らしていたことで、いまだにこうやって取材してもらったり、出会いのきっかけになったりしています。めちゃくちゃな場所でしたが、私にとっては宝物です」
吉田市議はかつてを懐かしむように目を細め、笑った。