高級老人ホームに訪れてすぐに感じた“違和感の正体”とは…(写真/イメージマート)
ラウンジや中庭などを見学すると、違和感の正体は明確になった。華やかな空間でおしゃべりを楽しんでいるのは、女性ばかりだったのだ。視界に入る男性の数は数えるほどで、皆、隅の方で肩身が狭そうに新聞や雑誌を読んでいた。
「正直、女性の入居者様のほうが、友人付き合いが上手な方が多いですね」
案内してくれたスタッフが、こっそり教えてくれた。言葉の裏を素直に読めば、男性の入居者は友人付き合いが下手だということだろう。
現役時代はチヤホヤされていたのに、ここではいち入居者に過ぎない。ただでさえ我が強い成功者にとって、ゼロから人間関係を構築しろと言われても、なかなか難しいのかもしれない。一方で、多くの女性入居者は「成功した配偶者を持つ普通の人」であり、普通の人同士ゆえに友人関係を作りやすい。夫に先立たれた女性同士が自然に打ち解けることも多いが、その逆はほとんどないと聞いた。
帰り道、私は「幸せとは何か」を考えずにはいられなかった。人間が社会的動物である以上、孤独の中で幸福を感じることは難しい。豪華な設備や一流シェフの料理はお金を払えば手に入る。しかし、それだけでは埋められないものがあり、真の満足は決して金銭だけで買えるものではないのだ。
【プロフィール】
外山薫(とやま・かおる)/1985年生まれ。慶應義塾大学卒業。会社員として働きながらTwitterに投稿した短編小説が「タワマン文学」として話題に。著書に『息が詰まるようなこの場所で』、『君の背中に見た夢は』(ともにKADOKAWA)。
(作家・外山薫)