『激しく煌めく短い命』/文藝春秋/2585円
【著者インタビュー】綿矢りささん/『激しく煌めく短い命』/文藝春秋/2585円
【本の内容】
悠木久乃と朱村綸。90年代半ばの京都を舞台に2人の女性の中学時代を描いた第一部「13歳、出会い」と、大人になり東京で久々の再会を果たしてからの第二部「32歳、再会」で構成される。綿矢さんの作品史上最も長い1300枚の大部も、微細なエピソードを通して描かれる2人の関係性、多感な年代の揺れる感情、時代の変化にぐいぐい引き込まれる。《感情に名前をつけて呼べば、とたんに魔法はくだけ散る。スペアミントを噛むような、甘く涼しい連なりを、絶やさないように夢見ている》──やがて名前をつけて呼ばれるその結末は。圧巻の恋愛小説。
友達として親しくなる中で心が傾くシチュエーションが好き
中学の入学式で知り合い、恋するようになった久乃と綸。中学時代の出会いと別れから、大人になって再会するまでを描く恋愛小説は、綿矢さんにとってこれまでで最も長い作品になった。
「初めはこの半分ぐらいの長さで終わるかなと思っていたんです。中学のときと大人になってから、時間をおいた二部構成で書こうというのは考えていて、前半の中学生のパートで、自分の中学時代をいろいろ思い出して、あれも書きたいこれも書きたいと長くなって。大人になってからもそのぶん増やして、思いがけずこの長さになりました」(綿矢さん・以下同)
お互いの気持ちを確かめ合っているのにうわさや誤解がもとですれ違う2人は、大喧嘩のすえ離れ離れになってしまう。大人になった彼女たちは、再び互いと向き合うことができるだろうか。
女性同士の恋愛を描く作品として、綿矢さんには『生のみ生のままで』という長編があり、2019年に『生のみ生のままで』が出てすぐこの『激しく煌めく短い命』の連載に取り組んだことになる。女性同士の恋愛をもう一度描こうと思ったのはなぜなのだろう。
「『生のみ生のままで』を書いているときは2人の美しさを余すところなく書きたいと思っていたんですけど、書いているときに、もっと不完全な、人間的に未熟な2人が傷つけ合いながらも愛し合っていく女性同士の恋愛も書けたらいいな、と思って、この作品に取りかかりました。『生のみ生のままで』を書いたから書けた作品ですね」
受験に失敗して京都の公立中学に通う久乃と、勉強はできないが、いわゆるスクールカーストの上位で男女問わず人気がある綸。学校ではほとんど交わるところのない2人だが、お互いをよく知るうちに惹かれ合っていき、手探りで愛をはぐくむ。
「2人は教室では全然違うタイプですけど、どちらもちょっと子供っぽい部分があって、相手の身体にも興味があって、どんどん惹かれ合っていきます。綸は、私の中学時代に人気のあった女子の典型みたいなイメージですね。明るくて快活でおしゃれで、人に執着しない。大人になってからの綸は、やさぐれてるけど情にもろくて、自分を好いてくれている久乃を突き放せない。中学時代の綸とはずいぶん違っているけど、やっぱり自分が好きなタイプの女性像です」
20年近くたって、久乃は広告会社の営業として東京で働いている。綸も東京にいることを知った久乃は、綸の幼なじみの橋本が上京したのをきっかけに綸と再会、2人はもう一度、お互いに向き合う。
「惹かれ合うのは本人たちには自然なことなんですけど、そういう相手に惹かれる気持ちをどう文章で表現するか。よくラブロマンスで、転びそうになったのを助けてもらうとかいう始まりがありますけど、そういうアクシデントがあって芽生える恋心じゃなく、友達として親しくなる中でなんとなく心が傾くというシチュエーションが私は好きなんです。でも、いざ書いてみると難しかったですね」
放課後に、綸に誘われて久乃も鉄はしごを下りて、あまり人が通らない川のほとりの細い道を歩く、2人の距離が縮まる場面など、忘れがたい印象を残す。