大人気の「うるしやま家」(公式HPより)
特番より深夜帯のほうが好相性の理由
次に、なぜ大家族モノなのにゴールデンタイムの大型特番ではなく、深夜帯の連続放送と配信なのか。
平成時代には『痛快!ビッグダディ』など多くの大家族モノがゴールデンタイムの大型特番として放送されましたが、時代の変化とともに減っていきました。少子化が社会問題となっているように大家族が減ったほか、ゴールデンタイムで視聴率が獲得できる特番ではなくなったことなどが主な理由と言われています。
『痛快!ビッグダディ』は最も有名な大家族モノとして知られていますが、注目を集めた理由は家族というより夫婦の波乱万丈な姿でした。その内容を見ていくと……妻との離婚後、男手一つで子どもたちを育てる父親は家族全員での奄美大島移住を決意。その暮らしぶりを番組で見た元妻と復縁するも、けっきょく再び離婚してしまう。さらに5人の子どもがいる別の女性と再婚し、今度は小豆島に移住。しかし、別居の末に離婚し、ともに島を出て移住するなど、ジェットコースターのような上下動の激しい生き様が話題となりました。
視聴率対策なのか、全編を通してケンカが多いなど、一般人を消費するような構成・演出が目立ちましたが、うるしやま家にはそのようなシーンはほとんどありません。シリアスなケンカや問題提起などはなく、その映像は明るくほほえましいもので占められています。
そんな明るさやほほえましさが強みのうるしやま家はYouTubeチャンネルも人気であるなど、配信との相性は抜群。そもそも「リアリティのあるドキュメンタリーの連続モノは中毒性がある」と言われ、配信での一気見にも適していることが追い風となっています。
現在のような〇週連続放送も、連続ドラマと同じように続きが気になる番組として最適な編成。これまでのような「年に1度の特番を毎年放送する」という編成は長すぎて見づらい上にブツ切れの印象があるなど相性がよくないことも深夜帯で連続放送している理由の1つでしょう。
かつてフジテレビの月曜23時台は『あいのり』『テラスハウス』などの連続性のあるドキュメンタリーを放送していた時間帯でもあり、ここでも相性のよさを感じさせられます。
さらにフジテレビとしては、「放送を見た人にFODの配信で過去のシリーズを見てもらいたい」というビジネスとしての狙いもあるだけに、しばらくは放送と配信の両方で視聴者に届けていく形を続けていくのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。