「酒と人生」連載第1回目はなぎら健壱さんにうかがった
国税庁「酒のしおり」(令和7年7月)によると、令和5年度における成人1人当たりの年間酒類消費数量が、全国平均で75.6リットルと2年連続の上昇となっている。コロナ禍を経て「外飲み」が減った時期もあったが、どっこい、酒はまだまだ我々の傍らにいる。人のいるところに酒があり、酒のあるところにはドラマがある。酒との付き合い方を聞けばその人の生き方が見えてくるのではないか。酒場ライターの大竹聡氏がたずねていく。連載1回目は酒場漂流の先輩、なぎら健壱さんにうかがった。【前後編の前編】
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酒場歩きをはじめて40余年。街で飲み、家で飲み、散歩の途中で飲み、旅で飲み────。いくらなんでも飲み過ぎたと後悔した翌日も、昼を過ぎれば蕎麦屋で一杯ひっかけたいなんてことを思ってる。そんな私が昨今ふと気になるのは、みんなどんな酒を飲んでいるんだろうということだ。何をどれくらい飲むのか。頻度はどうか。外で飲むのか、家でも飲むのか。誰と飲むのか、飲んだとき、何を喰って、どんな話をし、何を考えるのか……。そんなことを、ふと、知りたくなっている。
コロナ禍を経て、付き合い酒を飲まなくてもいい世の中になった。今こそひとり飲みをじっくり楽しめる。どこの酒場で何を何杯飲むか。すべては気分次第。誰に話を合わせる必要もない。そんなご時世だからこそ、あえて、みんなに、酒とどう付き合っているの? と訊いてみたい。
著名な人も市井の人も、たくさん飲む人も少しだけ飲む人も、単なる酒好きも酒のプロも、いろんな人に訊いて歩きたい。そんなシリーズの第1回は、長らく酒飲み界の頂にあって今なお飲み続けるなぎら健壱さんにお声をかけ、ご快諾いただいたので、酷暑の某日夕刻、酒席を供にしてきた。
なぎらさんといえば、フォークシンガー、ソングライター、タレント、写真家、俳優、いろんな顔をお持ちだが、1983年に『東京酒場漂流記』を上梓した酒場エッセイの第一人者である。この著作は、酒場を歩き、そこに集う庶民の会話に耳を傾け、見聞きしたことを開陳することで、ひとりで酒を飲むという、ひそやかな楽しみを伝えてくれる1冊だ。読みやすく味わい深いこの1冊の前では、数多ある酒場本が色あせるというものだ。そういう本を書かれた飲兵衛文筆界最高顧問と呼ぶべき人なのだが、久しぶりに一杯付き合ってくれませんかと声をかけたら、はいよって、酷暑の中をお越しくださった。ありがたい。さっそく生ビールでカンパイだ。
最近、いかがですか酒のほうはと問うと、生ビールをぐびりとやり、首筋の汗を拭って言った。
「年とともに、支障は出てきます。弱くなったのかなって思う。以前と同じ量を飲んでいるからマズイですね。どれくらいって、医者でよく聞かれるけど、たとえばビールに換算すると中ジョッキ15杯くらい? よくわからない。日によるけど、たとえば、ジョッキで2杯くらい飲んで、焼酎にかえて5杯くらいやって、それからワインを1本……、それからウチで缶チューハイとかね。帰りにコンビニで買って帰るんだけど、ロング缶2本あれば1本は残るだろうと思ってたら、あっと気づいたときには2本ともないんだよ。夜中にまたコンビニに行っちゃったよ」
すごい量だ。コロナ禍を挟んで、もう7、8年はお会いしてなかったが、お元気でなにより。と、思いきや……。