最後まで仕事を続けた叶井俊太郎氏
がんはある程度死期を予測できる。叶井氏は自宅で腹水を抜くなどの処置を続けながら、妻と一緒に映画を見るなどの日常を過ごした。
一般的に在宅療養は苦労が多い印象があるが、自宅での闘病を支えた倉田氏はこう語る。
「がんはすぐ亡くなる病気ではなく、夫は死の直前まで普通の暮らしをしていました。私も四六時中寄り添うことなく仕事を続けて、夫のために何かを犠牲にすることはなかった。お互いに好きなように生きていました。やりたいことを我慢するとしんどくなるから、在宅介護において家族は自分を犠牲にしないことが大切だと思います」
2024年2月、容体が悪化し、主治医に訪問医を紹介してもらい自宅で最期を迎える在宅緩和ケアを始めたが、10日後に叶井氏は息を引き取った。
望まない延命治療を避けるため容体が急変しても救急車は呼ばないと夫婦で決めており、死に際は訪問医に委ねたが、それでもあまりに急な別れだったと倉田氏は語る。
「この間も夫はずっと自分でトイレに行ってシャワーを浴び、動けなくなったのは最後だけ。前日も普通に暮らしていたから、まさかその日に死ぬとは思いませんでした」