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【新刊】保身、計算高さ、自分至上主義…身近にある“卑小な邪悪さ”が描かれる、辻堂ゆめ氏の犯罪小説『今日未明』など4冊

大藪春彦賞受賞の作家が描く今日的犯罪の卑近な邪悪さ

 美味しいものが盛り沢山な秋本番。お腹を満たして幸せになるだけでなく、本を読んで心も豊かにしてみては? おすすめの新刊4冊を紹介します。

『今日未明』辻堂ゆめ/徳間書店/1980円

 事件の概要だけを短く伝える新聞記事を冒頭に、記事からは想像もできなかった奥行きを描く。実父を手にかけた引きこもりの40男、同居中のシングルマザーの娘の転落死で逮捕される会社員、公園に新生児を遺棄した勝ち組女、熱中症で死亡する老夫婦。保身、計算高さ、自分至上主義など、身近にある“卑小な邪悪さ”を思う。でも現代はそんな時代。鏡像のような犯罪小説だ。

季語の本意は「ボン(凡)」の集合体。季語の力を信じ、手放せる言葉は手放す

『NHK俳句 夏井いつきの「凡人俳句」からの脱出』夏井いつき/NHK出版/1650円

 夏井先生の指南は歯切れよくて気持ちいい。本書では投稿句をもとに凡句を「ボン」、多少ましなものを「半ボン」、凡から脱出した句を「脱ボン」と呼んで具体的に示す。凡人が陥る最大の罠は「類想」ワード。例えば夏休みでは宿題と連想するが、脱ボンの句はこう。「丸顔のいとこ六人夏休」。特選は「隊長は独身のおば夏休み」。自分のボンぶりを噛みしめる。う~、精進せねば。

スタートしたばかりの朝ドラ『ばけばけ』。小泉八雲とセツ夫婦の愛と絆をひ孫がひもとく

『セツと八雲』小泉凡 聞き手・木元健二/朝日新書/957円

 著者は小泉八雲のひ孫。民俗学の見地から曽祖父を研究し、小泉八雲記念館館長も務める。八雲は来日当初ラフカディオ・へルンと呼ばれた。ドラマのヒロイン名「松野トキ」は、助詞を省き英語構文に日本語を並べる「ヘルン語」から採られたのだとか。本書は聞き手がいることで、現代と曽祖父母が生きた時代を往還するというマジックが生まれた。とても面白く夢中で読んだ。

ディナーはルーフバルコニーで。ワインを欠かさない高齢女子達のメローライフ

『終活シェアハウス』御木本あかり/小学館文庫/847円

 料理家の歌子、元教師の厚子、医師と離婚した瑞恵、認知症一歩手前の恒子。小学校から一緒の女達が再集結。歌子所有の150平方メートルのペントハウスで始まった合計272歳(68歳×4)の様子を、秘書として雇われた大学生男子の目線から温かく描く。最後の恋やロマンス詐欺など事件は起こるが、最大の嵐は居場所喪失の危機。10月にNHKでドラマ化。高齢女子パワーに元気をもらう。

文/温水ゆかり

※女性セブン2025年10月16・23日号

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