ツキノワグマは「人間を恐がる」と言われてきたが……(写真提供/イメージマート)
ゴミ捨てに行ったらクマに襲われた、幼稚園バスの前にクマの親子があらわれた、など日常生活のそばにクマの脅威がせまっていると連日、報じられている。かつて、クマは臆病なので人を見ると逃げ出す、と言われたが、近ごろ報じられているニュースからは、どうも違った様子が見えてくる。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、23日には盛岡市役所裏という市の中心部でクマが目撃されて騒然とした、岩手県でのクマ対策事情について住民の声をレポートする。
* * *
名レフェリー、タイガー笹崎がクマに襲われて死んだ。
あるいは、タイガー勝巳でもあった。敬意を込めて、本稿あえて敬称は略す。笹崎レフェリーでいいだろう。本名は笹崎勝巳と言った。近年では栃木プロレスでお会いした方も、あったかもしれない。
笹崎レフェリーには筆者も多くのプロレス団体、とくに全日本女子プロレスのレフェリーとしての記憶がある。ずいぶん昔、少しだけ取材でお会いしたこともある。ガッチリした体格ながら柔らかい話し方で、暴れん坊ばかりのレスラーをさばくにふさわしい、穏やかな人という印象だった。
逃げねえんだ。人馴れしてるのかどうか
笹崎レフェリーは移住先の岩手県北上市で露天風呂の清掃中、クマに襲われたとみられる。
10月17日、北上市和賀町の夏油川に近い雑木林で彼の遺体が見つかった。
笹崎レフェリーを襲ったとみられる体長1.5mのツキノワグマはその場で駆除された。北上市では2025年3人目の死者となった。
クマに殺される――いまや、それは身近なものとなった。決して昔語りでない、令和の熊害(ゆうがい)だ。
熊害の多発をうけて10月22日、木原稔官房長官は2025年のクマによる被害者数は108人(9月末時点)と発表して注意を呼びかけた。環境省もまた10月22日時点の死者数を9人とした。
