壁掛けのカレンダーは事件が発生した1999年11月のままで、奈美子さんのメモ書きも見られる(撮影:水谷竹秀)
妻を殺されたばかりで心が折れている最中に、その妻の血痕を遺族が拭き取らなければならない現実––––。悟さんが代表幹事を務める殺人事件被害者遺族の会「宙の会」の特別参与で、警視庁成城署元署長の土田猛さんはこう説明する。
「一般的には遺族が現場の掃除をやることが多い。証拠保全の関係から、ごくまれに警察がやる場合もあるのでケースバイケースだが、通常は遺族です。
どうしても自分でできなければ、親族の誰かに頼むとか。現場が現場なので、専門業者には頼みづらいのではないか。相場もわからないので」
犯罪被害者の支援や権利保護などについて定めた犯罪被害者等基本法が2005年に施行され、今年で20年が経つ。被害者や遺族への支援状況は徐々に改善されてきてはいるが、事件現場の清掃に関しては、いまも遺族が対応せざるを得ないのが実情のようだ。
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後編記事では、奈美子さんの血痕を拭き取った悟さんが「玄関のたたきの血痕」のみを拭き取らなかった意外な理由と、当時のまま維持している部屋の中に一つだけ増え続けた“あるもの”について伝えている。
(後編につづく)
【プロフィール】
水谷竹秀(みずたに・たけひで)ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)などの著書がある。10年超のフィリピン滞在歴を基に「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材を続け、ウクライナでの戦地ルポも執筆。
