中国の局長が「ポケットに手を突っ込む」姿が話題に(左から外務省の金井正彰・アジア大洋州局長と中国の劉勁松・アジア局長/時事通信フォト)
「漏らしたら逮捕される」との誓約書も
北京の日本料理店経営者の証言を続けよう。
「あの頃は春節の時期で忙しくて、店の個室に入った客が日本の大使だったことを私は後で知りました。垂大使と食事をする機会があって、『あなたの店に行ったことがあるんだ』と聞いて、あの時のお客さんだったんだと。しばらくして、店のスタッフから、実は垂大使が店に来た時に中国公安による盗聴工作があったと聞いたんです。スタッフは、『盗聴行為をやっていたことを他に漏らすとあなたは逮捕されます、という誓約書を書かされた』と話していました」
経営者が知ったのは盗聴事件の後だったという。中国当局は日本料理店の経営者も知らなかった垂大使の食事の予定を事前に掴んで食事する部屋まで変更させたことになる。
垂氏は対中強硬姿勢の一方、中国語が堪能で長い外交官キャリアを通じて人民解放軍や中国の各界に独自の人脈を築いたことで知られ、それだけに中国当局が動向を警戒して監視を続けていたことが窺える。
日本大使館がその事実を把握したのはさらに後だった。経営者が語る。
「大使館関係者とのお酒の席で、軽い気持ちで『中国のほうからカメラを仕掛けられて、大変だった』とスタッフに聞いた話をしたんです。そうしたら大変驚かれて、次の日に大使館に呼ばれ、『話を聞かせてください』と言われました」
経営者は事情を語り、そこで大使館側はその情報を知ったという流れだ。外務省関係者は言う。
「この情報は、垂氏の耳に入った後、垂氏自身が“機密指定”にして公電として外務省本省に報告しました」
特定機密保護法では防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野で「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」を大臣が特定機密に指定できる。外務省行政文書管理規則は「特定機密」以外の公表しない情報が記録された文書を「極秘」(部局長や大使が指定)と「秘」(課室長や公使が指定)に分類すると定めている(2025年10月からは「極秘」「秘」を「外務秘」に統合)。
垂大使への中国の盗聴工作がどのレベルの機密として扱われているかはわからないが、外務省、大使館が重大視するのは当然だろう。
ところが、その“機密情報”を垂氏が帰国した途端にインタビューでバラしたのだから大使館は驚愕した──。
(後編に続く)
※週刊ポスト2026年1月2・9日号
