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原田マハさん『晴れの日の木馬たち』インタビュー「すてらがアートを語るくだりは自分がマティスを、モネを、初めて見たら、と想像しながら書いた」

原田マハさん/『晴れの日の木馬たち』

原田マハさん/『晴れの日の木馬たち』

【著者インタビュー】原田マハさん/『晴れの日の木馬たち』/新潮社/2310円

【本の内容】
 後に大原美術館をつくった大原孫三郎が社長を務める倉敷紡績に勤める山中すてら。入社して6年、庶務室主任の小西彌太郎に小説への熱い思いを打ち明ける。《この気持ちを、文章を、物語を、自分以外の誰かに読んでもらいたい。そして、その人の心の引き出しにそっと入れてもらい、いつの日か、もっとずっとあとになって、また取り出して、もう一度読んでもらいたい。そのとき、自分が書いた物語が、ほんの少しでもいい、読む人を幸せにすることができたなら》──やがて東京へ行き、流行作家になるすてら、誕生の物語。

虚実の境を明らかにせず、あわいで楽しんでもらいたい

 原田マハさんの新作は、岡山・倉敷の紡績会社で12歳から工女として働く山中すてらという少女が主人公である。

 血のつながらない父に育てられ、貧しさから学校に通うことができなかったが、父とともにキリスト教の教会に通い、宣教師のアリスを師として聖書を勉強する。言葉を学んだすてらは、自分自身の言葉で物語をつむぎ始める。

 倉敷紡績の社長で大原美術館をつくった大原孫三郎や、大原の依頼でヨーロッパの絵画を蒐集する画家の児島虎次郎など、実在した人物も数多く登場、原田さんが得意とする、史実と虚構を織り合わせた「ヒストリカル・フィクション」である。

「史実を横糸に、フィクションを縦糸に書いていくのは私が得意としているところで、虚実の境を明らかにせず、読者にはそのあわいで楽しんでもらいたいです。フィクションに見えて、『これ本当にあったことなんだ?』という史実を結構、織り込んでいるので、読者との知恵比べみたいに、興味を持ったかたにはご自身でも歴史にあたってほしいです。

 スペイン風邪の流行や、倉敷で開かれた現代仏蘭西名画家作品展覧会というのも実際にあったことで、雑誌『新潮』編集長だった中村武羅夫が夏目漱石が亡くなる2週間前に神楽坂で会ったというのも、中村が書いていることで、そこにすてらを滑り込ませています。この場にもしすてらがいたら、というのを想像しながら、誰よりも自分自身が楽しんで書きました」

 すてらの恩師で、英語の手紙をやり取りするアリス・ペティ・アダムスは小説の中の人物かと思いきや、実在した女性宣教師なのだそう。アリスがいた花畑教会は現在もあり、彼女の名前は語り継がれている。この作品を雑誌に連載中、教会の信者から手紙が届き、アリスの名前が作品に出てくることを喜んでおられたという。

 泰西名画と出会ったすてらが、名づけ難い感動を自分の言葉で表現するところは、もともとキュレーターで、MOMA(ニューヨーク近代美術館)に派遣されたこともある原田さんの筆がのっているのが読者にもよくわかる。

「すてらは私の分身みたいな存在で、夢を諦めずに自分の好きなことを人生の真ん中に置いて生きることのひとつの象徴として描いたつもりです。

 とくにアートは、自分にとって特別なものなので、小説の中でもすてらがアートを語るくだりは、キーを叩くスピードがどうしても速くなりました(笑い)。自分がその展覧会にいて、マティスを、モネを、初めて見たらどう感じるだろう、と想像しながら、非常に筆滑らかに書けた部分です」

 小説の舞台となる倉敷、岡山は、原田さんにとっても特別な土地である。東京生まれだが、父が岡山に単身赴任し、一時期、家族で暮らしていたのだ。大原美術館では、その後の原田さんの人生を決めるような、絵画との運命的な出会いをしている。

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