カラオケのマイクを奪い合うみたいに進んでいった
雑誌の編集部を描いた作品というと、どうしても作家と編集者が中心になりがちだが、『うまれたての星』は、牧子や姪の千秋、漫画のページを担当させてもらえない女性編集者の視点などから複眼的に描かれるのが面白い。
「連載中は、次はこの人から始まると思います、と編集者に伝えていても全然違う人の話になったりしました。カラオケのマイクを奪い合うみたいに、話したい人が自分から話し始める感じで進んでいきましたね」
せっかく女性の編集部員がいるのに、漫画ページではなく、活版の読み物や懸賞をもっぱら担当して、肝心の少女漫画は男性ばかりでつくっていたというのも驚きである。
「そうなんですよ。私も取材をしながら、こんなに女性が任せてもらえていなかったというのがわかってびっくりしました。少女漫画なのに女性は冷遇されているというのも、小説の舞台として象徴的ですよね。
お会いした男性編集者のかたたちは、女性漫画家と仕事をしてこられたかたたちなので、男尊女卑的なところは少なく、女性へのリスペクトはお持ちなんですけど、冷遇する意識はなくても、漫画を担当するのは男性というのが、当時の自然な発想だったみたいです」
女性同士の人間関係を、つばぜり合いや足の引っ張り合いではなく、遠くからエールを送り合う関係として描かれていることも印象に残る。
「話を聞かせていただいた女性が連載中に『どうして大島さんはこんなに私たちの気持ちがわかるの?』とおっしゃってくださって。それは、みなさんに聞かせていただいたお話を取り込んで書いているからなんですけど、うれしかったですね。
彼女たちのシスターフッドの物語は、もしかしたら最初に書きたいと思った10年前ではまだ伝わりにくかったかもしれず、そういう意味でも、この小説は、今、世の中に出たかったのかもしれないです」
男性による少女漫画評は萩尾望都さんら「24年組」と言われる漫画家たちに焦点を当てて書かれたものが多いが、大島さんは「その前の世代もすごいんだぞということが、この小説で書けて良かったです」と言う。
「集英社の資料室に通って当時の漫画雑誌を読んだんですけど、作り手の熱が今読んでもすごい。子どもだった私も確かに受け取っていたし、その熱に負けないようにと思って小説を書きました」
【プロフィール】
大島真寿美(おおしま・ますみ)/1962年愛知県生まれ。1991年「宙の家」がすばる文学賞最終候補となる。1992年「春の手品師」で文學界新人賞を受賞しデビュー。2012年『ピエタ』が本屋大賞第3位に。2019年『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で直木賞受賞。ほかに『それでも彼女は歩きつづける』『空に牡丹』『結 妹背山婦女庭訓 波模様』『たとえば、葡萄』など著書多数。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2026年1月22日号