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【書評】『明日も、森のどこかで』 動物写真家による驚嘆の野生動物の生態の記録 森が本に化身しているという奇跡がここにある

『明日も、森のどこかで』/上田大作・著

『明日も、森のどこかで』/上田大作・著

【書評】『明日も、森のどこかで』/上田大作・著/閑人堂/2970円
【評者】角幡唯介(探検家)

 私のような狩猟者の目から見ると動物写真家というのは畏敬に値する存在である。狩猟で一番難しいのは獲物を見つけて接近することなのだが、彼らはそれをものの見事に達成し、決定的な動作や表情をものにする。カメラを猟銃にもちかえたら、いったいどれほど優れたハンターになることか……。それを友人の写真家に話すと、望遠レンズでズルするカメラマンも多いですよ、とのことだったが、少なくとも本書からはそんな嘘臭さは微塵も感じられなかった。

 この本を読んで私は何度もため息がもれた。ヒグマにエゾシカにシマフクロウにキタキツネ、そして漁師たちと、北海道の自然のなかでたくましく生きるたくさんの野生動物と人間が登場するのだが、写真は言わずもがな、とにかく文章がシンプルで正確で、ゆえに美しい。

 この普通ではない文章の秀逸さの裏には観察力と謙虚さがあるのだろう。驚きと好奇心をもって森を見ており、自然の小さな移ろいや何気ない動物の生態に素直に感動し、目を見張り、それが言葉となって表現されているので、文章に嫌味や作為が感じられない。まるで森の滴の一粒一粒が文字となってつづられたかのようである。

 本来は決して目にすることのできないはずの野生動物の生態がここにはいくつも記されている。森にとけこむ動物たちに近づくには自分も森にとけこまないといけない。とけこみ、何日もそれをつづけ、いつしか森のなかで不自然な存在ではなくなり、ついに自分自身が森の一部となったとき、動物たちはそれまで固く閉ざしていた心の蓋を外して素顔をさらけ出す。だから本書は森のことを描いた本ではあるが、自分が森に同化してゆく記録のようにも読める。

 森が本に化身しているという奇跡がここにある。写真と文章の端々から吹き抜ける大地の息吹を堪能されたい。

※週刊ポスト2026年2月6・13日号

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