国内

団塊世代の“勝ち逃げ”は嘘 年金は彼らの積立金が支える

 安倍政権が年金カットを閣議決定したのは消費増税を決断する1か月前の9月3日だった。その大義名分に掲げたのが、「もらいすぎ年金」と呼ばれる特例水準の解消だ。
 
 年金は物価の上下に応じて支給額を調整することになっているが、歴代の自民党政権はデフレ(物価下落)状況の中で高齢者の生活を考慮して年金支給額を下げずに据え置いた。結果、受給額は法律に定められた水準より高くなり、これが特例水準と呼ばれている。
 
 財務省や厚労省は昨年の消費税増税法案審議にあたって、そのことを問題にした。消費税を上げなければならないのは、「高齢者が年金をもらいすぎているからだ」と批判して現役世代の不満を高齢者に向けさせ、自公民3党で消費増税とともに年金カット(特例水準解消)の法案を成立させた。今回の閣議決定ではそれを予定通り実施すると決めたのである。
 
 しかし、本当に高齢者は年金をもらいすぎているのか。そもそも政府が年金減額に動いたのは、「団塊の世代」(1947~1949年生まれ)が年金受給開始年齢の65歳を迎え、年金財政が一層苦しくなったからだ。年金カットは団塊世代を狙い撃ちするものといっていい。
 
 年金博士として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。
 
「団塊世代は年金に関して“勝ち逃げ世代”といわれるが、そうではない。年金制度はすでに破綻しているのに、なんとか年金を支払うことができるのは、高度成長期からバブル期にかけて団塊世代が中心になって貯めた積立金があるからなのです」
 
 日本の年金制度は、積み立て方式ではなく、現役世代が支払う年金保険料で高齢者の年金を賄う「賦課方式」を取っている。制度上、保険料は給付に必要な金額という考え方が基本だ。ところが、政府は長い間、サラリーマンから支給額より多く保険料を徴収し、余ったカネを積立金にしてリゾート開発などに注ぎ込んだ。
 
 年金積立金とはいわば“払いすぎた保険料”であり、その金額は団塊世代が就職した1965年の約1兆4400億円から、大量退職を迎えた2007年には約127兆円へと100倍近くに増えた。
 
 半面、団塊世代は受給額では割をくっている。年金の支給額は制度改革のたびに減らされ、サラリーマン男性の世代別の年金支給額(今年3月末)を見ると、1927年生まれ(86歳)が平均月額21万7110円なのに対し、それ以降の世代は1歳刻みで受給額が減っていき、団塊世代の1947年生まれ(66歳)は18万1952円と3万4000円も低い。それに加えて年金支給開始年齢引き上げ(団塊世代は64歳で満額支給)で、生涯の年金受給額はさらに少なくなる。
 
 団塊世代は、現役の時は必要以上に保険料を支払って年金制度を支えさせられながら、受給額は前の世代より大きく減らされている。それなのに「もらいすぎ」と年金破綻の元凶のように批判されては、反乱を起こしたくなるのも当然だろう。

※週刊ポスト2013年10月18日号

関連記事

トピックス

左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
衆院広島5区の支部長に選出された今井健仁氏にトラブル(ホームページより)
【スクープ】自民広島5区新候補、東大卒弁護士が「イカサマM&A事件」で8000万円賠償を命じられていた
週刊ポスト
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン