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景気回復アピールする財務省 悲願の消費税率10%達成のため

 景気の先行きについて強気と弱気の見方が交錯している。強気派の代表は政府だ。政府は7月の月例経済報告で、消費増税に伴う駆け込み需要の反動について「和らぎつつある」と評価した。6月は「弱い動きもみられる」という書きぶりだったので、上方修正の判断である。

 強気の理由は個人消費だ。消費総合指数をみると、4月は増税の反動で前月比8.1%減と大きく落ち込んだ。ところが5月は1.3%増に戻した。家電やスーパー、デパートの売上高も持ち直しているから大丈夫、という。

 これに対して、民間エコノミストは弱気派が多い。5月に持ち直したといっても、4月にガツンと下げた後、ほんのちょっと上向いただけで、前年水準に戻っていないと指摘する。私も同感だ。

 弱気派を補強する材料は他にもある。設備投資の先行指標である機械受注が5月に大幅減になった。4月も前月比9.1%減だったが、5月は19.5%減とさらに急降下した。この下げ幅はいかにも大きい。月例報告も「(設備投資は)このところ弱い動きもみられる」と認めている。

 本当のところ、景気はどうなっているのだろうか。

 少なくとも政府の話は割り引いて聞くべきだ。というのは、2015年10月に予定される消費税再増税の決断時期を年末に控えている。それまでに景気が上向いていないと、増税が怪しくなる。

 消費税率10%達成を悲願とする財務省としては、なんとしても景気回復をアピールして増税への環境を整えておきたいのだ。月例経済報告を書くのは内閣府の仕事だが、財務省の強い影響下にあるのは周知の事実である。

 心配なのは、これから政府と日銀がしばらく「開店休業状態」になってしまいそうな点だ。政府は秋の臨時国会で補正予算を検討するだろう。補正が決まったとしても、実際に政府支出が始まるのは来年春以降になる。

 日銀はといえば、いまのままで来年度に消費者物価上昇率2%は達成可能とみているから、追加緩和に動く気配がない。つまり景気が本当に下向きになったときに、政策が後追いになってしまう。

 集団的自衛権の閣議決定など一見、順風満帆に見える安倍晋三政権だが、官僚が作った甘い見通しを信じて、肝心の景気が怪しくなると足をすくわれかねない。ここは経済政策に万全の注意を払うべき局面である。

(文中敬称略)

文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。

※週刊ポスト2014年7月8月8日号

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