一方で、今年は“デイリーらしさ”を自重している面もある。2月11日の初の紅白戦でマルテが本塁打を放った翌12日、1面の見出しはこうなった。
見出し:マルテ初弾!2安打3打点 掛布SEA「対応力ある」ヤクルト007「実戦向き」
あくまで事実とコメントをそのまま並べただけで、論理の飛躍は見られない。初の紅白戦を伝える記事の文末で、ロサリオには〈間違いなく超一流の野球観を持っている〉と最高級の賛辞を送ったが、マルテには〈これからもファンの期待をマルテが背負う〉と締めるに留まっている。
デイリーには、どうも“ロサリオ後遺症”があるのかもしれない。
前日10日付のデイリースポーツ本紙の名物コラム『松とら屋本舗』で松下雄一郎記者は〈もう去年みたいな思いはしたくない。だから極力期待しないように…というか、ダメだと決めつけて見るようにしてます。皆さんの中にもいるんじゃないだろうか。「ロサリオシンドローム」です〉と素直な心境を綴っていた。
この気持ちは、デイリー全体に行き渡っているようだ。マルテの活躍を1面に持ってきた12日付の2面では、〈吉田風の取材ノート〉に『あれだけ打てないわけは…』という見出しが打たれ、韓国ハンファでロサリオを指導していた正田耕三コーチに話を聞いている。その下段にある『トラ番25時』では、藤川球児がロサリオについて触れている。
デイリーの記者も阪神の選手も、キャンプで打ちまくり、シーズンで沈んだロサリオのことが今も忘れられないのではないか。
私はマルテの紅白戦での大活躍に浮き足立たないデイリーの紙面に物足りなさを感じる一方で、ロサリオのトラウマがあまりに大きいのか……と感傷的にもなった。
紙面を通じて、記者の葛藤も読み取れる。だから、デイリースポーツは愛されるのかもしれない。
●文/岡野誠:ライター・芸能研究家・データ分析家。研究分野は田原俊彦、松木安太郎、生島ヒロシ、プロ野球選手名鑑など。一時、『笑点』における“三遊亭好楽ドヤ顔研究”を試みるも挫折。著書に、本人へのインタビューや関係者への取材、膨大な資料の緻密な読解を通して、田原俊彦という生き方を描いた『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)。