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「斎藤佑はやっぱり持ってる」と流しのブルペンキャッチャー

安倍昌彦氏は1955年、宮城県生まれ。早大野球部で2年までプレー。3、4年時から早稲田大学高等学院の監督に。卒業後、会社員生活を経て、雑誌『野球小僧』でライター業を始める。有望投手の球を直に受ける人気企画「流しのブルペンキャッチャー」では140人の剛腕投手を体感し、人には真似のできないその迫真レポートはコアな野球ファンの間で絶大な信頼を得ている。以下は安倍氏による北海道日本ハムファイターズ・斎藤佑樹に関するスペシャルレポートだ。

* * *
1月の新人合同自主トレーニング。冬晴れの寒い日。鉄筋コンクリートの鎌ヶ谷の室内練習場は冷えきっていた。ブルペンで投げ始めた斎藤佑樹は、捕手を中腰にさせたまま、わずか20球足らずでピッチングを切り上げた。

まわりには、100人ほどの記者とカメラが取り囲み、隣のマウンドでは、同じルーキーの乾真大(東洋大)が汗飛び散らして投げていたにもかかわらずである。

すげえヤツだなぁ……。この状況でさっと上がれる彼の「ジコチュー」に舌を巻いた。もちろん、ほめ言葉である。たいていのルーキーは、ここで頑張って、あとで体をおかしくしてしまう。

こいつは、根っからの「ピッチャー」だ……。

そして、3月6日。札幌ドームのマウンドで、斎藤佑樹はベストメンバーで臨む巨人打線と対していた。まだ慣れていないはずの札幌ドームのマウンドから、彼のボールはほとんど大野捕手のミットを外さなかった。

突き抜けたセンス。

現象だけ見れば、「コントロールがいい」で終わってしまうが、まだほとんど投げていない札幌ドーム。マウンドからの距離感も、見える景色も、感覚ができていないはず。

それでいて、既にもう、そこに彼の「世界」を構築してしまっている。

動かしていた。名護のときより、ボールはもっと動いていた。

1つ前のストレートの球道。その残像を利用して、同じ球道からベース寸前でスッと沈める。バッターがストレートだと思ってバットを振り出した瞬間、そのスイングを彼のボールがスッとかいくぐる。

ツーシーム、カットボール、フォークボールにスライダーもあった。球種で言ってしまえば、よく聞く普通の変化球だが、振り始めてから動かれては、もうどうしようもない。

3イニング、巨人の打者11人。阿部、小笠原、坂本、ラミレスに高橋由伸もいた。強打者たちをヒット2本、無失点に抑え、例によって涼しい顔で、斎藤佑樹はマウンドを降りた。

相手のバッターたちに、いや、味方にすら悟られないように、微妙なさじ加減をリリースの一瞬に。ボールで遊べる茶目っ気。

さわやかで、まじめな好青年というイメージがあればあるほど、わからないように「落とし穴」を掘ってワナにかけては、お腹の中でニコッ。いたずらっ子の茶目っ気が効き目を発揮する。

いかにもルーキーらしく、懸命に投げているようでいて、実は、手のひらの上で、百戦錬磨の強打者たちをコロコロ、コロコロ。だから、神の子。

見ている者が想像をたくましくできるピッチャーほど、腕利きである。斎藤佑樹、このピッチャーの肝は「遊び心」なのかもしれない。

※週刊ポスト2011年3月25日号

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