国内

震災後の企業活動 「自分が一番得意なことやれ」と宣伝部長

ムシューダの「熊雄」

 東日本大震災以後、テレビCMはACのCMだらけになった。当然CM総合研究所が4月4日に実施した「CM好感度調査」(印象に残ったCM)のトップ10のうち、7件がAC関連のものとなった。そんな中、トップ10にAC以外で入ったのがニチレイ・アセロラドリンク(サントリー・5位)、香取慎吾と五月みどり・舟木一夫が登場するロト6(8位)、ムシューダ(エステー・9位)。

 9位の「ムシューダ」は震災対応というわけではなく、過去のCMを流したもの。防虫剤の「ムシューダ」のキャラ「熊雄」が動物園でイケメンの兄に会うというものだが、生活雑貨メーカー・エステーの「特命宣伝部長」である高田鳥場(たかだのとりば)氏は「“お見舞い”よりも“日常に戻ろう”」を意図したと語る。つまり、震災があろうがなかろうが、衣服等に虫がつくことがあるわけで、「ムシューダ」は防虫に役立つわけだ。

  ただし、当時は「自粛ムード」が広告業界には漂っており、なかなか「日常」CMを流すのは難しかった。震災時に企業が果たすべき役割について同氏に聞いた。

  * * *
――震災後の企業CMはとかく「日本を応援する」「前向いて歩こう」「一人じゃない」と呼び掛けるものでしたが、なぜ、「熊雄」の昔からあるバージョンを流したのですか?

高田鳥場:復興のためには、そろそろ「日常」に戻る必要もあると考えました。そこで新しいCMを流すのは「日常」ではありません。ACの新しいCMが大量に流れていた時は必然的に「震災後」を意識させられます。そこに私たちが新しいものを出しても「震災後」を連想させてしまい、それはまだ「有事」の内容として位置付けられてしまいます。

  今回の震災では、普段通りの生活がいかに尊かったかを皆さんが実感したことでしょう。だからこそ「日常」に戻ろうと私たちも言いたかったのですが、震災から日が浅いときに、新しいものを楽しそうに作ったら作ったで、それは被災者のかたがたへ配慮が足りないような気がする。だからこそ、震災前に見ていた「ムシューダ」の「熊雄がイケメンの兄に出会う」を流したのですね。そうすれば、視聴者は「あっ、これはアノ平和だった時に観ていたCMだ!」と心が「日常」に戻るお手伝いができるかもしれないと私は考えました。

  その後、エステーは当初の企画を変更し、「消臭力」のCMでポルトガルの人々が歌うCMを作り、流しました。これはたまたまだったのですが、1755年に津波で大打撃を受けたポルトガルの首都・リスボンで撮影し、ポルトガルの子供たちに「消臭力」の歌を歌ってもらった内容です。

――ツイッターなどで「感動的!」とか話題になりつつも「何だよ、消臭力のCMかよw」と笑われたCMですね。そもそも企業ってどうやってCMで震災に貢献すればいいのでしょうか?

高田鳥場:私は「プロの仕事をしろ」ってことだと思うのですよ。たとえば、東京ディズニーリゾートが震災後に流したCM。彼らは浦安という液状化の被害に遭った場所に位置しています。被災者であり、さらに「電気を食う!」ってことで批判にも晒されましたが、4月15日に節電をしながら復活しました。

  そんな彼らが流したCMは「あなたの笑顔にお会いするために、東京ディズニーリゾートはただいまお休みをいただき、皆様をお迎えする準備を進めています」というもの。あくまでも「エンタテインメントを提供するディズニー」なのですね。彼らはブランドイメージについては徹底している企業ですが、今回のCMはその徹底さが出ていましたし、「エンタテインメント」という彼らが最も得意なプロの部分を明確にCMという形で見せた。

  あとは例えばIBMですね。クラウドサービスを被災地には無償で提供するとCMで告知しました。

  ディズニーもIBMも「プロ」として企業が貢献できることを明確にCMで示したのです。自分のドメインで勝負しているCMは受け入れられると思うんですね。本来、お客様に喜んでもらってはじめて企業は存在するわけで、そのプロの領域を行うことこそ、当たり前ですが「お客様」に喜んでもらえると思いました。エステーにしても、「防虫剤」「消臭剤」というプロの仕事を見せるCMを作ったと思います。

関連記事

トピックス

真美子さんが完走した「母としてのシーズン」
《真美子さんの献身》「愛車で大谷翔平を送迎」奥様会でもお酒を断り…愛娘の子育てと夫のサポートを完遂した「母としての配慮」
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
《コォーってすごい声を出して頭をかじってくる》住宅地に出没するツキノワグマの恐怖「顔面を集中的に狙う」「1日6人を無差別に襲撃」熊の“おとなしくて怖がり”説はすでに崩壊
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)千葉県の工場でアルバイトをしていた
「肌が綺麗で、年齢より若く見える子」ホテルで交際相手の11歳年下ネパール留学生を殺害した浅香真美容疑者(32)は実家住みで夜勤アルバイト「元公務員の父と温厚な母と立派な家」
NEWSポストセブン
今年の”渋ハロ”はどうなるか──
《禁止だよ!迷惑ハロウィーン》有名ラッパー登場、過激コスプレ…昨年は渋谷で「乱痴気トラブル」も “渋ハロ”で起きていた「規制」と「ゆるみ」
NEWSポストセブン
アメリカ・オハイオ州のクリーブランドで5歳の少女が意識不明の状態で発見された(被害者の母親のFacebook /オハイオ州の街並みはサンプルです)
【全米が震撼】「髪の毛を抜かれ、口や陰部に棒を突っ込まれた」5歳の少女の母親が訴えた9歳と10歳の加害者による残虐な犯行、少年司法に対しオンライン署名が広がる
NEWSポストセブン
新恋人A氏と交際していることがわかった安達祐実
《新恋人発覚の安達祐実》沈黙の元夫・井戸田潤、現妻と「19歳娘」で3ショット…卒業式にも参加する“これからの家族の距離感”
NEWSポストセブン
キム・カーダシアン(45)(時事通信フォト)
《カニエ・ウェストの元妻の下着ブランド》直毛、縮れ毛など12種類…“ヘア付きTバックショーツ”を発売し即完売 日本円にして6300円
NEWSポストセブン
レフェリー時代の笹崎さん(共同通信社)
《人喰いグマの襲撃》犠牲となった元プロレスレフェリーの無念 襲ったクマの胃袋には「植物性のものはひとつもなく、人間を食べていたことが確認された」  
女性セブン
大谷と真美子夫人の出勤ルーティンとは
《真美子さんとの出勤ルーティン》大谷翔平が「10万円前後のセレブ向けベビーカー」を押して球場入りする理由【愛娘とともにリラックス】
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(秋田県上小阿仁村の住居で発見されたクマのおぞましい足跡「全自動さじなげ委員会」提供/PIXTA)
「飼い犬もズタズタに」「車に爪あとがベタベタと…」空腹グマがまたも殺人、遺体から浮かび上がった“激しい殺意”と数日前の“事故の前兆”《岩手県・クマ被害》
NEWSポストセブン
「秋の園遊会」でペールブルーを選ばれた皇后雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《洋装スタイルで魅せた》皇后雅子さま、秋の園遊会でペールブルーのセットアップをお召しに 寒色でもくすみカラーで秋らしさを感じさせるコーデ
NEWSポストセブン