国内

「派遣社員は電話出るな! お茶出すな!」の通達で大騒動

 法や規制には、「世の中にこういう秩序をもたらしたい」という理念がある。だが、目的と方策が合致していないタイプの“おバカ規制”が実はたくさんある。「ハケンの規制」にはそんな問題が満載だ。元通産官僚で行政改革担当大臣補佐官も務めた原英史・政策工房社長が解説する。

 * * *
 2010年2月、厚生労働省から出された文書が全国のオフィスに大騒動を引き起こした。

 会社側が特定の派遣社員たちに、「どんなに電話が鳴っていても、出てはいけない」「人が出払っている時にお客様がいらしても、絶対にお茶を出すな」などと、不思議な指示を出したのである。

 原因となった文書は、「専門26業務派遣適正化プラン」という職業安定局長通達だった。

 オフィスで事務をこなす派遣社員には、法令上、2種類ある。1つは、労働者派遣法施行令で定められた26業務のうち「5号業務」と言われるもので、〈電子計算機、タイプライター、テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作の業務〉の専門職種で契約している人。もう一つは、「一般事務」だ。

 この2つは契約期間などで法令上の厳然たる区別がある。「5号業務」は派遣期間の制限なしだが、「一般事務」は原則1年まで(手続きを踏めば最長3年)、となっている。

 とはいえ、仕事の現場はそう単純に切り分けられない。契約上は「パソコン操作」などに限定されている「5号業務」の派遣社員も、鳴り続けている電話くらい取る。従来は、そういう「付随的な業務」も常識の範囲内で認める趣旨の通達が出されていた。

 ところが、厚労省は局長通達(適正化プラン)で規制を強化し、さらに細則を定めた「疑義応答集」で、〈5号業務の実施に伴い、お茶くみが必要になるとは考えられない〉、〈業務の実施に電話応対を要しないときの電話の応対〉を少しでも行なっている場合は、5号業務を含む専門26業務とは認められないなどとした。

 違反すれば、たちまち「違法な派遣契約」として取り締まり対象になる事態に。

 規制強化の目的は恐らく、「企業がお茶汲みなどの『一般事務』のために長期で人員確保したいなら、本来『正社員』として雇うべき。でも、そこで専門職種(5号業務)として期限なしの派遣契約を結び、正社員になれない『かわいそうな派遣社員』が生まれている。彼らに安定した雇用機会を提供しなければ!」ということだったのだろう。

 しかし、もたらされた結果は、職場の大混乱通達を機に「これでは派遣なんてもう雇えない」と派遣切りや採用縮小する企業が続出した。

 泣きを見たのは長期にわたって職を得ていた派遣の人たちだ。小嶌典明・大阪大学大学院教授によれば、「5号業務の実稼働者数は、この3年間で約25万人から、半分以下の約12万人に減少した。一部には派遣先に直接雇用された者もいるが、失職した者も少なくないと思われる」という。

「職業安定局長」の通達が派遣の雇用を不安定にしたのだ。

※SAPIO2011年6月15日号

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン