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原発警戒区域住民 廃業ホテルから復活への第一歩踏み出す

 遅々として進まない政府の震災対応に業を煮やし、「もう国には頼れない」と立ち上がった町がある。福島第一原発事故の警戒区域に指定され、住む場所を追われた双葉郡楢葉町の住民たちが、小さなホテルを舞台に復興への第一歩を踏み出した。ジャーナリストの小泉深氏が「復興」の現場からレポートする。

 * * *
 ロビーに入ると“宿泊客”と“従業員”が世間話に花を咲かせる光景に遭遇した。ボランティア団体のマッサージを受ける年配の男女が笑顔を見せ、芝生が広がる中庭では老夫婦がベンチに仲睦まじく腰掛けている。

 ここは福島・いわき市内にある「Nホテル」だ。かつてはリウマチや腰痛に効くという源泉が看板の湯治宿だったが、昨年8月に経営不振で廃業。その後、建物は債権者である金融機関の手に渡ったが、買い手もつかずに放置されていた。そんな休眠ホテルが今では“稼働率9割超”の大盛況となっている。

 もちろん、福島第一原発から40~50kmのいわき市に湯治客が押し寄せているわけではない。実はNホテルの宿泊者も従業員も、原発から20km圏内(警戒区域)に住んでいた楢葉町民。そして“総支配人”は草野孝・町長である。

 人口約7700人の楢葉町は福島第二原発のお膝元で、町内には原発事故の対応拠点となっているJヴィレッジもある。事故発生後、町民はいわき市のほか、郡山市や福島市、そして姉妹都市提携を結ぶ会津美里町などに移住した。

 Nホテルにはいわき市に避難した町民の一部が身を寄せている。

 本館20部屋、別館15部屋、そして7つの宴会場で生活するのは62世帯88名。収容人数は100名強で、間もなく10数名が入居して“満室”になる予定という。夫婦や親子で入居する町民は客室に、単身者は宴会場の大部屋に入る。特に評判がいいのは本館5階の大浴場で、高齢の入居者は「風呂に毎日入れることがどんなに幸せか身に染みました」と喜びの声を上げる。 

※週刊ポスト2011年7月1日号

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