ライフ

“反原発”に乗れない漫画原作者 村上春樹のスタンスに疑問

【書評】『運命の人 四』(山崎豊子/文春文庫/670円)

【評者】大塚英志(まんが原作者)

 * * *
 反原発にどうしても乗れない。ついこの間までそう口にすればサヨクとののしられたはずだし、共産党が震災前に今回の事態を想定した質問をしてもその時点では一行も報じなかったのに。それがちょっと放射能飛んできたぐらいで、そういうリスク込みで自民党の原子力政策支持してきたんだろうに、有権者も大半のメディアも。

 何年か前、イラクへの自衛隊派兵差し止めの裁判やっていた時も「湾岸戦争の時に劣化ウラン弾使われて今回もその可能性がある。子供の被曝リスクが高い」と説明したらあちこちから冷笑されたけど、じゃあ「子供たちを救え」って「日本人限定」って入れとけよ。

 広島・長崎の原爆と原発は同じ核だから反原発って大江健三郎が言うならともかく村上春樹かよ。どいつもこいつも話違うじゃん。リスクわかって原発使ってきたんだから、あれほど大好きだった「自己責任」ってフレーズの出番と違うのか。

「サヨク」にしたって原発の是非を国民投票でって、国民投票一回やったら憲法改定までまっしぐらだから国民投票そのものがNGじゃなかったのかよ。もし「原発」で顕わになった問題をフツーに考えるなら地方に交付税や利権と引き換えに都市部のリスクを負わせる構図、「放射能」のリスクを言うなら米軍が当然持ち込んでいるよねと誰もが思っている「核」の問題でしょう。つまり普天間へのスタンスに当然直結するのにしない。村上春樹も米軍出てけっていえば筋は通るのに。

 で、沖縄返還当時の機密文書を報道した新聞記者をモデルにしたこの小説。四巻でトーンが一挙に変わる。四巻だけで一つの小説だとさえ思った。この人が書きたかったのは沖縄の戦時下の悲劇だったのか、ということがはっきりとわかる。早い文庫化を自ら願い出たとある「文庫版のためのあとがき」でも沖縄戦や基地のことしか書いていない。

 そうか山崎豊子も戦争を経験した戦後文学者だったのだ、と改めて思う。その世代の筋の通し方には頭を垂れるしかない。

※週刊ポスト2011年7月22・29日号

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
立花孝志容疑者(左)と斎藤元彦・兵庫県知事(写真/共同通信社)
【N党党首・立花孝志容疑者が逮捕】斎藤元彦・兵庫県知事“2馬力選挙”の責任の行方は? PR会社は嫌疑不十分で不起訴 「県議会が追及に動くのは難しい」の見方も
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン