国内

「暴力団の抗争はPR経費みたいなもの」と暴力団研究第一人者

島田紳助の引退で暴力団の存在がクローズアップされている昨今だが、端的にいってしまえば、暴力団を暴力団たらしめてきたのは、抗争の歴史である。流された夥しい量の血こそが、闇にあって組織の存在を浮き彫りにする。紳助がすがった威光も結局はそこにある――暴力団研究の第一人者、ジャーナリスト・溝口敦氏が「戦後」を総括する。

* * *
戦後、神戸が産み出した日本一はダイエーと山口組だけと、かつては言われていた。

しかし今、ダイエーは凋落して昔の面影はなく、山口組だけが暴力団組員2人のうち1人は系列組員というガリバー型寡占を誇っている。構成員数でいえば、2位は東京の住吉会、3位は稲川会であり、山口組以下の上位3団体は「広域団体」として警察の扱いも特別だが、内実は2、3位が連合しても、山口組一つに及ばない。

戦後の焼け跡から再スタートを切ったころには、どの組もドングリの背比べだった。団体間で大きく差が開いた理由は、組員が命と懲役をかけて戦う抗争からどれだけ逃げなかったかによる、といえそうだ。

たとえばA組の組員がB組の組員とケンカして、殺したとする。A組は多額の香典や弔慰金を持ってB組を訪ね、「殺った組員は警察に自首させます。どうかこれで勘弁して下さい」と持参のカネを差し出して詫びる。これで次の抗争(報復のための2次抗争、再報復のための3次抗争など)がなしですむなら、合理的で、人道にもかなっていると、一応いえるかもしれない。

だが、年がら年中カネで解決では、暴力団はジリ貧になる。なぜなら暴力団である以上、周りに恐れられてナンボだからだ。一昔前、組の幹部はよく「ケンカに勝てば、自然にカネが湧いてくる」と口にした。地元企業の社長などは何かトラブルを抱えたとき、抗争に勝った組を訪ねて、解決してくれるよう頼む。負けた方に頼んだら、持参のカネが死に金になることが明らかだからだ。暴力団同士が商売(シノギ)の場でバッティングし、互いに名刺を交換した場合、退くのは必ずケンカに負けた組である。

暴力団が抗争すると、経費が掛かる。実行犯の組員が逃亡すれば潜伏するための旅費、宿泊費、生活費。逮捕され、また服役すれば、弁護士代、面会・差し入れ費、留守家族の生活費、あらゆる局面でカネがかかる。

敵側の首領1人を殺すためには尾行などの所在確認、追跡要員、3~4人から成る襲撃部隊、現場指揮者、見届け要員、逃走幇助要員など、平均して10数人の組員が必要になる。首尾よく敵首領の殺害に成功しても、早晩、警察の摘発を受けて、前記の諸経費がかかる。暴力団の出費が巨額に達することは容易に想像できよう。

ひきくらべ相手側に弔慰金を払うことで抗争を回避するのは、抗争した場合の経費をカットする経済合理性にちがいない。費用対効果の点からは暴力を振るってばかりではいられない。しかし暴力団が周囲に「恐怖印」のイメージを印象づけるためには、抗争回避は得策ではない。

結局、山口組は他の暴力団に比べて、数年ごとに血で血を洗う大抗争を繰り返すことで、今日の大を築いたともいえよう。だいたい抗争は利害関係のない野次馬にとって、大きければ大きいほど面白く、一種の娯楽になり、慰めになる。こうした抗争の効果で山口組幹部の名を聞けば、なんとなく顔が思い浮かぶマニアさえいる。つまり抗争により組や幹部の知名度、認知度が上がり、ひいてはそれが強さイメージにつながっていく。たまの抗争は組のためのPR経費といって過言ではない。

※週刊ポスト2011年10月14日号

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン