国内

野田首相が本当に恐れているのは野党でなく与党内からの造反

先の主要20か国・地域(G20)首脳会議で野田佳彦首相が消費税引き上げを「国際公約」したと各紙が報じた。この「国際公約」とはどういう意味なのか? その単語の意味を東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。

* * *
日本国内で本格的な増税論議が始まっていないのに、外で約束するのは手順が違う。後で批判を浴びるのを承知のうえで、野田がまず国外で消費税引き上げを約束したのはなぜか。

「対外的にも約束したから先送りできない」という論法は野党や国民向けには使えない。なぜなら「外でそんな約束をしたお前が悪い」という話になって責任追及されるのが関の山だからだ。

そうではなく、これは民主党の党内向けだ。いずれ与党内では消費税引き上げ法案をめぐって火花が飛び散る。増税反対派をどう説得するか。そのとき「総理が国際公約した話なんですよ。それでも反対するなら総理の面子をつぶすだけでなく倒閣話になる。党を壊すつもりか」という脅し文句に使うつもりなのだ。

与党議員は野党と違って基本的には総理を支える立場にある。その野田が世界に増税の決意を示した以上、反旗を翻すならもはや政局、党内権力闘争になる可能性が高くなった。 野党がいくら「中で話す前に外で約束するとは何事だ」と拳を振り上げたところで「これは私の方針です」と突っぱねてしまえば、それまでだ。

本当に怖いのは野党ではなく、与党内からの造反だ。それを抑えこむために、いまのうちに思い切ってルビコン川を渡ってしまった。そんなところではないか。先手必勝の作戦である。

野田にこういう知恵を授けたのは、もちろん財務省だろう。まず野田を先に動かして、絶対に後戻りできないようにする。引き上げ撤回を言い出せば、直ちに政権崩壊という断崖絶壁に追い込んだ。そのうえで与党内の反対派とはガチンコ対決させる。腰が引けたほうが負けという構図だ。今回の「国際公約」は国内政治の産物でもある。

※週刊ポスト2011年11月25日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

中居、国分の騒動によりテレビ業界も変わりつつある
《独自》「ハラスメント行為を見たことがありますか」大物タレントAの行為をキー局が水面下でアンケート調査…収録現場で「それは違うだろ」と怒声 若手スタッフは「行きたくない」【国分太一騒動の余波】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
皇室に関する悪質なショート動画が拡散 悠仁さまについての陰謀論、佳子さまのAI生成動画…相次ぐデマ投稿 宮内庁は新たな広報室長を起用し、毅然とした対応へ
女性セブン
定年後はどうする?(写真は番組ホームページより)
「マスメディアの“本音”が集約されているよね」フィフィ氏、玉川徹氏の「SNSのショート動画を見て投票している」発言に“違和感”【参院選を終えて】
NEWSポストセブン
スカウトは学校教員の“業務”に(時事通信フォト)
《“勧誘”は“業務”》高校野球の最新潮流「スカウト担当教員」という仕事 授業を受け持ちつつ“逸材”を求めて全国を奔走
週刊ポスト
「新証言」から浮かび上がったのは、山下容疑者の”壮絶な殺意”だった
【壮絶な目撃証言】「ナイフでトドメを…」「血だらけの女の子の隣でタバコを吸った」山下市郎容疑者が見せた”執拗な殺意“《浜松市・ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問
NEWSポストセブン
「情報商材ビジネス」のNGフレーズとは…(elutas/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」は“訴えれば勝てる可能性が高い”と思った》 「情報商材ビジネス」のNGフレーズは「絶対成功する」「3日で誰でもできる」
NEWSポストセブン
入団テストを経て巨人と支配下選手契約を結んだ乙坂智
元DeNA・乙坂智“マルチお持ち帰り”報道から4年…巨人入りまでの厳しい“武者修行”、「収入は命に直結する」と目の前の1試合を命がけで戦ったベネズエラ時代
週刊ポスト
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン