国際情報

200億円支援の台湾に日本外務省がひどい仕打ちをしていた

経済の急成長とともに台湾への野心を剥きだしにしつつある中国。しかしそれを見過ごすことは日本にとっても大きな問題になりかねないとジャーナリストの櫻井よしこ氏は警告する。

* * *
軍事力で相手を脅しながら、一方では経済や文化の交流で籠絡し、抵抗の意欲を失わせる。こうして軍事力を使わずに相手を屈服させるのが「孫子の兵法」、中国の戦略です。

中国の策略に自ら嵌まり、属国精神に染まっているのかと問いたくなるのが、台湾の馬英九総統です。台湾はアメリカに新型戦闘機F16C/Dを66機購入したいと要望して結果断られましたが、馬氏は、「米国がF16C/Dの売却をできなくても仕方がない」と発言したと聞いています。最初から諦めているかのような発言です。「自分たちの手で台湾を守る」という気概そのものが、国民党政権にはないと言わざるを得ません。

中国は1979年以来、台湾に「三通」(通商、通航、通信の直接交流)を呼びかけてきました。その結果、両国の経済的交流が深まり、昨年9月には中台経済協力枠組協定(ECFA)が発効しました。協定では中国が539品目の関税を撤廃し、台湾は267品目を撤廃と、一見台湾に有利ですが、真の目的は台湾を「経済的に離れられなくする」ことです。

台湾経済の中国への依存度は高まるばかり。現在、台湾の輸出の40%は中国向けで、中国大陸で働く台湾人は150万人規模にのぼります。家族を含めれば約600万人です。2300万人の台湾人のおよそ4分の1が中国との直接的関わりの中で生計を営んでいることになります。

馬氏は最近、10年以内に平和協定を結ぶ意向を示しましたが、平和の名のもとに、実質的には併合協定が結ばれてしまうことでしょう。

来年1月の台湾総統選は、まさに台湾の存亡を決する選挙になると思います。日本にとっても他のアジア諸国や米国にとっても、命運を左右する重要な分岐点です。

引き続き馬氏が総統となれば、中国の台湾併合への戦略は、次の段階に進むでしょう。もちろん、馬政権の親中的政策を批判する民主進歩党の蔡英文氏が勝っても、中国の基本的な路線は変わりませんが、台湾側が自ら中国の手に落ちていくような方向性を転換することにつながります。

台湾が脅かされれば東アジアが不安定になる以上、それを防ぐことが日本の国益です。

日本が台湾に対してできることはたくさんあります。今すぐにでもできるのは、「台湾の未来を台湾の人々の意思に沿って守っていく」という意思を日本として明らかにする、つまり民主主義を支持すると表明すること。そのために支援を惜しまないと言い続けることです。これは台湾の人々を勇気づけ、台湾の政治に力を与える効果を生みます。

言葉だけでなく、実際の行動においても台湾との関係を緊密にしていくことが大事です。台湾とのFTA(自由貿易協定)で経済交流を深め、交換留学生をはじめ、各界各層の人事交流も活発に行なっていくべきです。

軍事的には、米国とアジア諸国、インド、オーストラリアなどとの連携が重要になります。日本は原子力潜水艦を造り、東シナ海をはじめ重要な海域に展開させる。これは中国の台湾侵略、そして尖閣諸島を守る抑止力になります。

台湾は東日本大震災の際、200億円というどの国よりも多い義援金を送ってくれました。台湾の人々の熱い想いがこめられた有り難い支援でした。その台湾に対し、外務省はこれ以上のひどいことはないと言ってよい仕打ちをしました。

10月6日に開かれた台湾の建国記念日、双十節(10月10日)の祝賀会には、各省庁の政務三役(大臣、副大臣、政務官)ら、政府関係者は出席を自粛するようにという通知を出していたのです。中国への卑屈さと、台湾に対する非礼には呆れるばかりです。

異形の国家、中国に気兼ねをすることは、台湾を窮地に追い込み、日本をも危うくする。私たちはそのことを肝に銘じなければなりません。

※SAPIO2011年12月7日号

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