ライフ

視聴率42.8%「ミタ」の教え いやなら無理に笑わなくていいよ

「家政婦のミタ」の高視聴率を支えた視聴者の多くは、笑いたくないのに笑って生きているのでは? 表情をとりつくろい、他人の顔色をうかがい、知ったかぶりをしている。お追従、媚びへつらい、おもねり、ご機嫌とり……。ミタが、われわれ視聴者に語りかけたものは何だったのか。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が考察する。

* * *
今年後半の大ブレイクは、なんといっても日本テレビのドラマ「家政婦のミタ」。いよいよ21日最終回は、なんと瞬間最高視聴率が42.8%と、異例中の異例の数字を記録して幕を閉じました。

このドラマを続けて見るうちに、不思議な変化を実感した人もいたのではないでしょうか。私自身、松嶋菜々子演じる家政婦の「ミタ」の徹底的な無表情、冷たく暗い横顔を見ることが、実はだんだん快感になってきたのです。

不思議なことに、あの鉄面皮を見つめると爽快感さえ感じるようになったのです。いったいなぜ、ロボットように冷たい無表情に快感を感じてしまうのか。自問しました。その意味で、普段はなかなか実感できない奇妙なドラマ体験でした。

ミタの無表情に快感を感じたのは、その能面が、「自分を繕っていない、ありのままの姿」を現していたからではないでしょうか。

夫と息子を亡くし決定的な不幸を抱え、簡単には笑うことができない十字架を背負ったミタ。ミタにとっての真実、「生きることの大変さ」とは、能面のような表情で生き続ける姿そのものに現れている。

つまり、能面とは、自分をごまかしていない証拠だった。だからこそ、視聴者はそこに「爽やかさ」を感じとった、と言えるのではないでしょうか。

一方、視聴者をはじめとして日本中の多くの人々は、笑いたくないのに笑って生きているのではないでしょうか。表情をとりつくろい、他人の顔色をうかがい、知ったかぶりをしている。

お追従、媚びへつらい、おもねり、ご機嫌とりと、みんな「仮面」を被って暮らしている。多くの人が、被りたくなくても仮面を被らざるを得ない状況の中にいます。

そんな「仮面」を被った欺瞞に満ちた社会に、一人の「能面」が戦いを挑む。「能面」が、次々に、登場人物の「仮面」を剥いでいく。剥ぐことで、家族や人を再生させていく。このドラマの構造は、一言でいえば「能面」対「仮面」の戦いでした。

だからこそ、仮面を被っている多くの視聴者は心が揺さぶられ、自分自身の仮面を剥がされて、ともに浄化されていくような共感と快感を味わったのでしょう。それが40%超えという、考えられない高視聴率につながった理由ではないでしょうか。

出色の出来だった「家政婦のミタ」ですが、いくらドラマの設定やストーリーがあっても、主役・松嶋菜々子の気力と力業がなければ成り立たなかったはずです。徹底した無表情を持続し、一切崩さずに演じ切ることは、そう簡単ではありません。

「笑えなければ、無理に笑わなくていい」という正直な能面哲学を、日常の中でしっかと持っている意志の強い女優だからこそ演じ切れた--そう言えるのかもしれません。


関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン