国際情報

対中国の多国間外交開始で日本がアジアの盟主になる可能性も

アジアで、そして世界で存在感を増し続ける中国。一方、先細りに見える日本。2012年、両国の関係、そして地位はどうなっているのか。ジャーナリストの富坂聰氏は、振る舞い次第では日本がアジアの盟主としての地位を確立し、新たな成長センターをリードする役割を果たすことができるという。以下は、富坂氏の解説だ。

* * *

間もなく2011年が終わろうとする12月9日、中国のいまを象徴するようなニュースが飛び込んできた。それは韓国の排他的経済水域(EEZ)内で違法操業をしていた中国漁船を取り締まろうとした韓国海洋警察の警官一人が中国人船長によって刺殺されたというニュースだった。

実は韓国EEZ内での中国漁船の密漁問題は、もう2年ほど前から深刻な状況にあり、許可証の偽造や偽国旗の使用、または問題発覚後の船による体当たりや鉄パイプなどで武装して抵抗するといったようにエスカレートし続けていた。

そうした中で起きた今回の事件だけに、いよいよ一線を越えたか、との印象は拭えないのだが、これの何が中国のいまを象徴しているのかといえば、大きく分けて二つある。

一つは、中国が力を付けた(主に経済力)ことによって従来ならば中国国内だけに止まっていたはずの中国の無法ぶりが、中国に近寄らない外国人にとっても身近になったという現実だ。とくに日本では「武装して警官と戦う」といえば、まず「特殊な訓練を受けた」といった発想につながるが、決して彼らはそういう人々ではない。

逆に言えば自分たちの利益を侵されている(実際には逆だが、彼らはそう受け取っている)と思えば命がけで抵抗する現実は中国では珍しくない。

つまり外国から見ればとんでもないルール違反も国内では生き延びる術として許されるといった一種のパーセプションギャップが輸出される時代が本格化するという意味だ。

そしてもう一つが、こうした中国に接した周辺国との間で、「やっぱり中国は……」といった認識が共有され始めたということだ。これこそ対中外交における2国間から多国間への変化であり、今年1年を象徴する出来事だ。

南シナ海問題をめぐって、膨張を続ける中国に対して東南アジアがまとまって交渉を始めたことや、日本が参加を検討しているTPPもある種の側面では中国に対するけん制が含まれている。実際、日本のTPP参加検討の動きに刺激されたように、これまで停滞していた日中間FTAの交渉がにわかに活発化したという事実もある。

いずれにせよ中国政府にとって今回の海洋警察間刺殺事件は重い。一対一で向き合えば御しやすい国々が、いよいよ中国に対して複数で力を合わせて対抗するとの流れに向かい始めたのだから当然だ。これでは中国が周到に考えた「こっそり巨大になる」という外交戦略も、骨抜きになってしまうだろう。

こうした事態に日本はどう向き合えば良いのか。言うまでもなく日本にとって対岸の火事と処理できる問題ではない。そのことは12月13日、海監50という最新の警備艇が東シナ海の巡視を始めている事実を見ても明らかだ。

だが、気を付けなければならないのは中国と韓国の対立に便乗してどちらかに肩入れすることも外交上決して得策ではないということだ。そうではなく南シナ海であれ黄海であれ、対立の仲介者として日本が多国間交渉の主催者になることを目指すのが最も理想的な展開だ。

2012年、振る舞い次第では日本がアジアの盟主としての地位を確立し新たな成長センターをリードする役割を果たすことができる。そんなチャンスが降ってくる年でもあるのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段通りの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏。2024年10月31日(時事通信フォト)
《名誉毀損で異例逮捕》NHK党・立花孝志容疑者は「NHKをぶっ壊す」で政界進出後、なぜ“デマゴーグ”となったのか?臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
昨年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん
「今この瞬間を感じる」──PTSDを乗り越えた渡邊渚さんが綴る「ひたむきに刺し子」の効果
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
「秋らしいブラウンコーデも素敵」皇后雅子さま、ワントーンコーデに取り入れたのは30年以上ご愛用の「フェラガモのバッグ」
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン
クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
「胃の内容物の多くは人肉だった」「(遺体に)餌として喰われた痕跡が確認」十和利山熊襲撃事件、人間の味を覚えた“複数”のツキノワグマが起こした惨劇《本州最悪の被害》
NEWSポストセブン
近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン