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北朝鮮 金正日時代はある程度シビリアンコントロールされてた

これまでアメリカは北朝鮮の核の放棄を要求してきた。しかし、その交渉が全く前進しないどころか、北朝鮮では核開発が進められてきた。ところが、交渉相手、金正日が亡くなった。これは米朝交渉の大きな転換を意味する。一体何が起きるのか、コリア・レポートの辺真一編集長が解説する。

* * *
今年1月5日付韓国紙・東亜日報は、北朝鮮が2008年に金正日が脳卒中で倒れた後、糖尿病、心臓病、脳卒中の専門医師を米国の有名病院で研修させていたと報じた。また金正日の体調が急変した昨年12月、米国は心臓疾患専門の医療チームを、北朝鮮に派遣するようスタンバイしていたとの情報もある。

米国は金正日の健康状態を詳細に把握し、その動向には相当な注意を向けていた。その最大の理由は、北朝鮮の核問題を政治決断ができる金正日との交渉で解決したい、との意向が強く働いていたからだ。北朝鮮の軍部を抑えられるのは、独裁者の金正日しかいないと米国は判断していた。

金正日もまた、米朝交渉を前に進めるべく動き出そうとしていた。昨年、米朝は7月と10月の2度にわたり、スイス・ジュネーブで高官協議を行なった。その協議で、今年の1月か2月には6か国協議を再開することで、ほぼ合意に達していたのだ。

6か国協議再開の条件は、北朝鮮が開発中の濃縮ウランを一時中断すること。その見返りに北朝鮮は食糧支援を受けることになっていた。

金正日は6か国協議再開を外交成果として、4月15日の金日成生誕100周年を盛大に祝うつもりだった。

金正日の死は今後の米朝関係、国際情勢に大きな影響を及ぼすことになろう。

最高司令官となった金正恩は、金日成軍事総合大学を卒業後、3年間の軍隊生活を送り、除隊後上尉の階級を授与された軍歴を持つ。軍人出身の最高司令官となり、名実ともに北朝鮮は軍事国家となった。

核廃棄を約束した6か国共同声明の履行を期待していた米国にとって、最悪のシナリオとなったのである。

米朝交渉進展の条件のひとつに米国は韓国との対話を打ち出している。

金正日葬儀の2日後の12月30日、北朝鮮の最高指導機関、国防委員会は韓国の李明博大統領を名指しで批判し、「永遠に相手にしない」との声明を発表した。またウェブを通じて、これからも核抑止力を強化する、と事実上の核開発を明言している。国防委員長である金正日が亡くなり、一体誰の権限によってこのような強硬な声明を出したのだろうか。

金正日と趙明録(軍総政治局長)の死去により、委員長と第1副委員長が空席となった国防委員会の副委員長は、金英春人民武力部長(75歳)、李勇武元軍総政治局長(88歳)、呉克烈元軍総参謀長(80歳)、そして張成沢行政部長(65歳)の4人。張を除く3人は軍出身であり、しかも強硬派。さらに強い絆で結ばれている。この3人が音頭をとって先の声明を出したと思われる。

すべての決定権を持っていた金正日は軍出身ではなかった。つまり金正日時代の北朝鮮はある程度、シビリアンコントロールされていたのである。だが、もはや最大の権力集団である軍部をコントロールできる存在はなくなった。

※SAPIO2012年2月1・8日号

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