ライフ

「萌え」を現代語に再生させたオタクの言語感覚に女性作家脱帽

「萌え」といえば「オタク特有のスラング」と思うかもしれないが、実は、1000年以上も前から日本人の生活の中に息づいてきた言葉だという。その言葉を、微妙な心の揺れを表現する現代語として、いきいきと再生させたオタクの言語感覚に、作家で五感生活研究所の山下柚実氏は脱帽する。以下は、山下氏の解説だ。

* * *
オタク用語として知られる「萌え」。その言葉に、私は以前からなにか不思議な響きを感じとってきました。先日、その答えに、茶席で出逢ってしまったのです。

日本人は昔から刻々と移りゆく季節感をとらえて表現することが上手でした。食べ物も例外ではありません。とりわけ、色、形、ネーミングでみごとに季節を表現するのが和菓子。その繊細な美しさは、世界に誇ることのできる、まさしく日本の伝統美です。

最近は、有名パティシエたちが活躍する洋菓子・スイーツの勢いに押され気味の和菓子ですが、日本文化の再発見ブームとともに、その魅力にあらためて気付く人も増えてきたようです。

和菓子の特徴は、何といっても季節感にあります。刻々と変わっていく自然界とつながりながら、お菓子の姿・形も次々に変化する。たとえば極寒の1月、茶席に出される和菓子には「花びら餅」「寒紅梅」などがあります。

桃色の味噌餡を、ぎゅうひで包んだ「花びら餅」。練りきりを梅の花の形に仕上げ、梅の淡い紅色を模した「寒紅梅」。お菓子そのもの姿の美しさに見とれるとともに、優雅な名前の響きに、うっとりとしてしまいます。

そして、都会に雪が降り積もる今日この頃、登場してくるのが「下萌え」というお菓子。色は白と緑。白は、雪に覆われた大地を示し、緑は新芽を現す。それが暗黙の決まりです。

雪の下で春が萌え出ているということを、お菓子そのものが表現しています。まだまだ寒さが続く中、ひたすら春を待つ心が生んだ、和菓子の傑作でしょう。

この「下萌え」という名前に注目していただきたいのです。「萌え」という言葉は、1000年以上も前から「芽が出ること」「きざすこと」を現し、人々の生活の中に息づいてきました。

今、「萌え」といえば「オタク特有のスラング」と決めつけて考える人が多いようですが、いやいやどうして。心の中で何かがきざす、微妙な心の揺れ、その瞬間をとらえる感覚、願いや想いまでを含みこんだ言葉の使い方は、まさしく伝統に通じています。日本古来の繊細な感覚的表現を、正当に引き継いでいるとも言えるのです。

何といっても驚かされるのは、オタクの方々が膨大な言葉の海から「萌え」という言葉を選び出し、微妙な心の揺れを表現する現代語として、いきいきと再生させたことでしょう。

必ずしも自覚的ではなく無意識のうちに選び取ったのかもしれませんが、使い続けることで、言葉にもう一度、魂を吹き込んだ。その鋭いセンス・伝統を引き継ぐ言語感覚には脱帽です。

「萌え」という言葉の登場とともに、「オタク文化」はこの世の春を迎えたのかもしれません。

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
ソロとして音楽活動5周年を迎える香取慎吾
《ソロで音楽活動5周年》香取慎吾が語った「5人とは違って…」「もっとできるはずなのに」ソロで経験した“挫折” ライブツアーでは「パーフェクトビジネスアイドル」としてファンを沸かせる
NEWSポストセブン
13年ぶりの写真集『ふたたび』(双葉社)を5月30日に発売
小向美奈子 Xで「今年結婚します!」投稿の真意を本人に聞いた 今でも「年に1~2回くらいは求婚される」と語る彼女は“ダーリン”との未来予想図をどう描くのか
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
6月3日に亡くなった長嶋茂雄さんとの写真を公開した大谷翔平(公式インスタグラムより)
《さようなら長嶋茂雄さん》大谷翔平から石原裕次郎まで、誰からも愛された“ミスター”の人生をスターたちとの交流で振り返る 
女性セブン
沖縄を訪問される天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年6月4日、撮影/田中麻以)
《愛子さま 初めての沖縄ご訪問》ブルーのセットアップで母娘の“おそろい”コーデ再び! 雅子さまはくすみカラーで落ち着いた着こなしに
NEWSポストセブン
人気インフルエンサーがレイプドラッグの被害者に(Instagramより)
《海外の人気インフルエンサーが被害を告発》ワインに“デートレイプドラッグ”が混入…「何度も嘔吐し、意識を失った」「SIMカードが抜き取られていた」【オーストリア】
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平が帰宅直後にSNS投稿》真美子さんが「ゆったりニットの部屋着」に込めた“こだわり”と、義母のサポートを受ける“三世代子育て”の居心地
NEWSポストセブン
『激レアさんを連れてきた。』に出演するオードリー・若林正恭と弘中綾香アナウンサー
「絶対にネタ切れしない」「地上波に流せない人もいる」『激レアさんを連れてきた。』演出・舟橋政宏が明かす「番組を面白くする“唯一の心構え”」【連載・てれびのスキマ「テレビの冒険者たち」】
NEWSポストセブン
「ミスタープロ野球」として広く国民に親しまれた長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
《“ミスター”長嶋茂雄さん逝去》次女・三奈が小走りで…看病で見せていた“父娘の絆”「楽しそうにしている父を見るのが私はすごくうれしくて」
NEWSポストセブン
現場には規制線がはられ、物々しい雰囲気だった
《中野区・刃物切りつけ》「ウワーーーーー!!」「殺される、許して!」“ヒゲ面の上裸男”が女性に馬乗りで……近隣住民が目撃した“恐怖の一幕”
NEWSポストセブン
シンガポールの元人気俳優が性被害を与えたとして逮捕された(Instagram/画像はイメージです)
避妊具拒否、ビール持参で、体調不良の15歳少女を襲った…シンガポール元トップ俳優(35)に実刑判決、母親は「初めての相手は、本当に彼女を愛してくれる人であるべきだった」
NEWSポストセブン