国内

東大発表の「首都直下地震4年以内に70%」に東大内から異論

「マグニチュード(M)7級の首都直下地震が今後4年以内に約70%の確率で発生する」

 今年1月、東大地震研究所(地震研)の研究データが明るみに出ると、テレビや週刊誌が一斉に「首都潰滅」を煽った。何しろ地震研と言えば、日本の地震研究の権威である。これまでの予測とはまったく意味するものが違うと考えた人は多いだろう。しかしこの発表のみならず、日本のこれまでの地震予知自体に、「信憑性なし」と異論を唱える声が、同じ東大から上がっている。以下、ロバート・ゲラー東大教授の解説である。

 * * *
 実は、この「4年で70%」という「試算」は、地震研の酒井慎一准教授らの研究グループが昨年9月、地震研談話会(所内ゼミナール)で発表したもので、当時はほとんど話題にならなかった。ところが今年1月下旬、読売新聞がメンバーのひとりである平田直教授のコメント入りで1面で報じたとたん、新聞各紙、テレビ、週刊誌が競うように飛びついた。

 私に言わせれば、この試算や弾き出された数値には何の普遍性もない。その1つの証拠に京大の研究者が少し違うデータを使って同様の手法で試算し、「5年以内、28%」としている。同じ手法に拠りながら、数値にこれだけ大きな誤差やバラツキが出ること自体、試算に信憑性がないことを強く示唆している。

 平田教授自身、一部週刊誌の取材に「僕のヤマ勘ですよ」と答えたと報じられ、身内の地震研でさえホームページに「このサイトに掲載されたからといって、地震研究所の見解となるわけではまったくありません」などと見放すようなコメントを記している。

 私は試算に信憑性がないと言ったが、だからといってM7級の地震が首都圏を直撃するリスクがないとは思っていない。東日本大震災の翌日、長野と新潟の県境でM6.7の地震が発生した。あの日、あの程度の地震が首都圏で発生したとしても何の不思議もなかった。発生確率の数値とは無関係に、日本のどの地域においても、いつでも大きな地震は起こり得るのだ。

 文部科学省の地震調査研究推進本部が発表している確率論的地震動予測地図(いわゆるハザードマップ)を見れば、そのことが一目瞭然である。同地図は今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われると予測される確率分布図で、確率が高い地域ほど濃い色で塗り潰されている。最も危険とされているのは、関東から四国に至る太平洋岸。「東海」「東南海」「南海」の地震発生が想定されている地域である。

 ところが現実には1979年以降、これらの地域では震度6弱以上の地震は起きていない。逆に10人以上の死者・行方不明者を出した地震は、ことごとくリスクが低いとされる地域で発生しているのだ。

 3.11の大地震で甚大な被害をもたらした東北地方も同様である。この矛盾からだけでも、ハザードマップの作成に用いられた方法論に欠陥があるのは明らかである。

 地図作成の根拠になっているものの一つは「固有地震説」である。これは基本的に各地域で同じ規模の地震が周期的、定期的に繰り返されるという仮説である。

 たとえば1854年に頻発した安政の大地震と、1923年の関東大震災の間には69年の間隔が空いている。だから次の大地震は69年後の1992年前後に起きる可能性が高いと推論するわけだ。幸い大地震は起きなかったが、こうした予測が外れると、今度は新たな「○年周期説」が声高に叫ばれるようになる。モグラ叩きのようだ。

 しかし「周期説」には科学的根拠と言えるものは何もない。安政の大地震の最も大規模なものは駿河湾の断層面で起きており、関東大震災の震源域は相模湾の断層面だ。二つの地震はまったく異なる断層面で起きており、両者を比較すること自体、間違っている。

※SAPIO2012年3月14日号

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン