ライフ

精神科医 被災者の亡くなった家族の「記念日自殺」を懸念

 人口6万弱の宮古市は死者・行方不明者あわせて600人以上の犠牲者を出した。その宮古市で昨年12月から日曜日ごとに仮設住宅を回って被災者の声に耳を傾けている精神科医がいる。

 岩手県宮古市で「たかはしメンタルクリニック」を開業する精神科医の高橋幸成氏はこう話す。

「患者さんや被災者の話を聞いて、何度も何度も涙を流しています。彼らの悲しみを『受容』しようとするのですが、悲しみが大きすぎるのです。精神科医になって30年以上経ちますが、こんなことは初めてです」

 高橋氏が12月から仮設住宅回りを始めたのには切実な理由がある。

「実は自分が診察し、薬も処方した患者さんが、10月に海で入水自殺してしまいました……」

 津波で妻を亡くし、店を流されてしまった60代の電器店店主の告白によるものだ。途方に暮れ、不眠の日々が続き、うつ症状に悩まされ、高橋氏に相談にきた。「一人で考え込まないで下さい」「頑張らないでいいですよ」……そんな話をすると、「残った倉庫を改装して店を始めたい」といった前向きな言葉が返ってきた。

「その時は、この人は立ち直れるだろうと思いました。ところが、その数日後、警察から電話があり、自殺を知りました。ショックでした。大失敗です。自殺を防ぐのが私たちの仕事なのに、それができなかったのですから。それで、二度と自殺者を出すまいと思い、仮設住宅を回って被災者の心のケアを続けることにしたのです。症状は薬で治せますが、感情を薬で癒すことはできません。溜まっている感情を少しずつ吐き出してもらうことが大切です」(高橋氏)

 全ての仮設住宅を一巡したら終わり、とは考えていない。二巡、三巡するつもりだし、隣接する大槌町、山田町の仮設住宅も回るつもりだ。

「今後気をつけなければいけないのは、震災や家族の死から1年、自分や亡くなった家族の誕生日といった区切りの時の『記念日自殺』です。急に喪失感が高まったり、妙な安堵感に包まれたりするからです」

 高橋氏は被災者のケアを5年間続けるつもりでいる。そのための移動に使う車を5年契約で借りた。

「心のケアはマラソンのように長いのです」

 高橋氏にとって復興作業はまだ始まったばかりである。

※SAPIO2012年4月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

優勝パレードには真美子さんも参加(時事通信フォト/共同通信社)
《頬を寄せ合い密着ツーショット》大谷翔平と真美子さんの“公開イチャイチャ”に「癒やされるわ~」ときめくファン、スキンシップで「意味がわからない」と驚かせた過去も
NEWSポストセブン
デート動画が話題になったドジャース・山本由伸とモデルの丹波仁希(TikTokより)
《熱愛説のモデル・Nikiは「日本に全然帰ってこない…」》山本由伸が購入していた“31億円の広すぎる豪邸”、「私はニッキー!」インスタでは「海外での水着姿」を度々披露
NEWSポストセブン
生きた状態の男性にガソリンをかけて火をつけ殺害したアンソニー・ボイド(写真/支援者提供)
《生きている男性に火をつけ殺害》“人道的な”窒素吸入マスクで死刑執行も「激しく喘ぐような呼吸が15分続き…」、アメリカでは「現代のリンチ」と批判の声【米アラバマ州】
NEWSポストセブン
“アンチ”岩田さんが語る「大谷選手の最大の魅力」とは(Xより)
《“大谷翔平アンチ”が振り返る今シーズン》「日本人投手には贔屓しろよ!と…」“HR数×1kmマラソン”岩田ゆうたさん、合計2113km走覇で決断した「とんでもない新ルール」
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の学生時代
《被害者夫と容疑者の同級生を取材》「色恋なんてする雰囲気じゃ…」“名古屋・26年前の主婦殺人事件”の既婚者子持ち・安福久美子容疑者の不可解な動機とは
NEWSポストセブン
ソウル五輪・シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング=AS)銅メダリストの小谷実可子
《顔出し解禁の愛娘は人気ドラマ出演女優》59歳の小谷実可子が見せた白水着の筋肉美、「生涯現役」の元メダリストが描く親子の夢
NEWSポストセブン
ドラマ『金田一少年の事件簿』などで活躍した古尾谷雅人さん(享年45)
「なんでアイドルと共演しなきゃいけないんだ」『金田一少年の事件簿』で存在感の俳優・古尾谷雅人さん、役者の長男が明かした亡き父の素顔「酔うと荒れるように…」
NEWSポストセブン
マイキー・マディソン(26)(時事通信フォト)
「スタイリストはクビにならないの?」米女優マイキー・マディソン(26)の“ほぼ裸ドレス”が物議…背景に“ボディ・ポジティブ”な考え方
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
《かつてのクマとはまったく違う…》「アーバン熊」は肉食に進化した“新世代の熊”、「狩りが苦手で主食は木の実や樹木」な熊を変えた「熊撃ち禁止令」とは
NEWSポストセブン
アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン